年々増加する倒産の類型に「後継者難倒産」があります。少子高齢化や事業の将来性に対する不安から後継者が見つからず、廃業を余儀なくされる会社が増えているのです。本稿ではその実態と対策につき、弁護士が解説します。
増加する後継者難倒産
企業の倒産を原因別に分類した場合、「人手不足倒産」、「粉飾倒産」、「ゼロゼロ融資(コロナ融資)後倒産」、「物価高倒産」などがありますが、今回は、「後継者難倒産」を取り上げてみたいと思います。
「後継者難倒産」とは、経営者から事業を引き継ぐ後継者がいないために、会社としての事業継続ができなくなってしまうタイプの倒産です。
後継者がいない現実に直面するのは、現在の経営者が死亡した時の場合もあれば、病気等の事情によって今後の会社経営ができない状態になった場合もあります。
2024年上半期の後継者難倒産は過去最多に
東京商工リサーチの調査によれば、2024年上半期(1月~6月)の後継者難倒産の件数(負債総額1,000万円以上)は、249件(前年同期比20.9%増)で、同社が調査を開始した2013年度以降で過去最多を更新したそうです。
要因別では、
■「死亡」 128件(前年同期比28.0%増)
■「体調不良」 88件(前年同期比15.7%増)
■「高齢」 27件(前年同期比12.5%増)
となっています。
なお、2023年の代表者の平均年齢は63.76歳(前年63.02歳)で、2009年以降で最高を更新しているとのこと。
IT関連のベンチャー企業など、若い人の起業も取り沙汰される昨今ですが、高齢化の波は確実に企業の経営者にも及んでいると言えます。
産業別では、「建設業」の60件(前年同期比20.0%増)が最多であり、増加率では「運輸業」が前年同期比216.6%増(2024年上半期19件、前年同期6件)と目立った伸びを示しています。
後継者難倒産が起きてしまう原因
現在の経営者が「死亡」「体調不良」「高齢」といった事情で今後の経営が続けられなくなったとしても、然るべき後継者がいれば、後継者難倒産は起きないはずです。
それでは、なぜ、然るべき後継者がいない、という事態が生じてしまうのでしょうか。
後継者難倒産が起きてしまう原因としては、
①少子高齢化の影響
②事業承継のための準備期間の不足
③事業の将来性に対する不安
を挙げることができます。
以下、順に見ていきましょう。
①少子高齢化の影響
皆さんもご存じのとおり、現在の日本では少子高齢化が進んでおり、労働人口も減少の一途を辿っています。
労働人口が減っているということは、会社の経営者が後継者をその中から選ぶ母数自体が減っているということです。
このため、後継者の候補として相応しい人材に巡り合えないということも増えているのです。
また、先に見たとおり、2023年の代表者の平均年齢は63.76歳(前年63.02歳)で、2009年以降で最高を更新しており、経営者の高齢化が進んでいます。
自分ではまだまだ大丈夫だと思って、後継者を育てないまま漫然とワンマン経営を続けてしまうと、いざ引退しようとした時に、後を継いでくれる人がいないという事態もあり得ます。
このように、少子高齢化の波は、会社の後継者問題に確実に影を落としていると言えます。
②事業承継のための準備期間の不足
事業承継をスムーズに行うためには、多くの準備と長い期間が必要です。
先々のことを見据えて、少しずつでも着実に準備を進めてきた会社であれば困ることはないでしょう。
しかし、中には、現在の経営者が病気で倒れた等、突然の事情によって後継者への引継ぎを迫られたものの、平時の準備もできていないため、その段階で途方に暮れてしまう―――という会社も多いのです。
このように、事業承継のための準備期間が不足していれば、当然ながら後継者へのスムーズな引継ぎはできず、最悪のケースでは後継者難倒産に繋がってしまいます。
本業を回しながら、今後の事業承継にも気を配るというのは大変かもしれませんが、現在の経営者に万一の事があった場合を考えると、平時の早めの準備が必要なのです。
③事業の将来性に対する不安
適切な後継者候補が出てこない一因として、会社が取り組んでいる事業の、将来性に対する不安というのも見過ごせないものです。
「時代の変化のスピードについていけないのではないか?」
「技術革新で後れをとり、将来の採算性が見えない・・・」
このような不安を抱えた会社では、後継者候補として名乗りを上げる人はどうしても少なくなってしまうでしょう。
ましてや、現状の会社の財務状況が悪い(多額の債務を抱えている)場合はなおさらです。
このように、事業の将来性に対する不安から、誰もその事業を引き継ぎたがらず、後継者難によって倒産してしまうこともあるのです。
後継者難倒産を防ぐには?
自分が始めた事業、または先代から引き継いだ事業を、まだまだ将来性があるにもかかわらず、後継者がいないという理由で閉じなければならないなど、誰もが望んでいないはずです。
それでは、このような後継者難倒産を防ぐには、どのような対策をすればよいのでしょうか。
①先々を見据えた早めの後継者選定と育成
先に見たとおり、後継者難倒産が起きる原因の一つとして、事業承継のための準備期間の不足があります。
どんなに優秀な経営者であっても、漫然とワンマン経営を続けていると危険です。
突然の病気や死亡など、いつ何時、どんな事情でその方が会社を経営できなくなるとも限りません。
万が一の事態に備え、早めに後継者を選び、育てていきましょう。
なお、後継者を選定する際には、併せて、自社の経営状態も明確化し、候補者に説明できるようにしておく必要があります。
経営状態が不明なままだと、候補者としても、不確定要素が多く、そのような会社を引き継いでよいものかどうか判断ができないですし、将来のビジョンも描けません。
また、どんなに有望な後継者候補であっても、成長には時間がかかるものです。
短期間のうちに全てを引き継がせようとしても、必ず無理が生じます。
一にも二にも、早めに準備すること。
じっくりと時間をかけて後継者を育成することが、スムーズな事業承継の要と言えます。
②専門機関に相談する
いくら会社の経営者であっても、事業承継は人生でそう何度も経験するものではありません。
そのため、事業承継や後継者探しを考え始めたら、まずは専門機関に相談するとよいと思います。
相談することで、自社の抱える課題を客観視できるだけでなく、事業承継に関する法律問題や支援制度などの情報も詳しく聞くことができ、どのような事業承継の形がベターなのか、判断するのに役立ちます。
国の設置する公的相談窓口として「事業承継・引継ぎ支援センター」などがありますので、活用してみて下さい。
③М&Aという方法
自分の親族や会社の中に適切な後継者候補が見つからないという場合は、М&A(企業の合併・買収)を選択するのも一つの方法です。
自分が経営してきた会社を第三者の手に委ねることにわけですから、心情的には強い抵抗があるかもしれません。
しかし、後継者がいないという理由で会社が倒産してしまったら、せっかくこれまで積み上げてきたものが無に帰してしまいます。
それよりは、会社の命をつなぎ、次に託すという意味で、М&Aを選択肢の一つとして検討してみてもよいと思います。
後継者がどうしても見つからない時は・・・
早めに専門機関に相談し、後継者候補の選定も重ねてみたけれど、どうしても然るべき後継者が見つからない―――。
そのような場合には、残念ながら、事業を畳む、すなわち廃業することも検討しなければなりません。
断腸の思いかもしれませんが、事業を引継ぐよう無理強いすることもできませんし、後継者がいない以上、致し方のないことです。
廃業を決めたとして、その時点での会社の経営状態が良好であれば比較的問題は少ないでしょう。
しかし、会社が債務超過の状態であれば、公的な手続きを経て負債を整理しておかないと、金融機関や取引先といった債権者に多大な迷惑をかけることになってしまいます。
当事務所では、これまで多数の法人破産の申立てを手掛けてきており、後継者難倒産の事案も経験があります。
後継者難が原因で破産申立てを考えている経営者の方は、是非一度、グリーンリーフ法律事務所にご相談下さい。
皆様が経営されてきた大切な会社です。最後もきちんとした“しまい方”ができるよう、お手伝いさせていただければと思います。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。