紛争の内容
1 10年以上前に事実上倒産した企業
破産を申し立てた法人は、都内にあった父の家に本店を置いていた、家具や室内装飾品の製造・販売を事業内容とする企業です。インテリア製品を各百貨店に卸していたとのことです。
平成23年の東北大震災前には、2億5000万円ほどの年商だったそうです。
この企業は本申立の代表者の実父が創業し、バブル崩壊後の担保に提供していた不動産の価値の下落により、メインバンクからの借り換えの保証金が多額となり、借り入れに障害が出て、資金繰りに窮していたとのことでした。
また、資金の借り入れをするために、父とともに息子である現代表者も代表権ある社長に就任していました。
資金繰りは父が、営業は息子である本代表者が分業で行っていましたので、現代表者は正確な財務状況を知らず、また、父の指図のもと営業をしていたので、本当のところ、会社全体を把握していなかったと説明しました。
2 準自己破産の申立て
同社が事実上の倒産状態に陥ったのは、平成23年で、本破産申立は、同社の代表者が経済的に更生するには、倒産状態の企業も破産手続をとるべきとの代理人弁護士にアドバイスされたからとのことでした。
破産申立は、令和4年ですから、事実上の倒産後10年以上経過していました。
また、商業登記簿上は、本代表者以外に3名の取締役がありましたが、代表者である実父はすでに亡くなり、一人の取締役は、要介護認定を受け介護施設におり、取締役会を開くことができず、取締役の一人として、本代表者が、本法人の準自己破産として申し立てたものです。
もう一人の取締役は、本申立に異存ない旨が報告されていました。
3 財産の状態
法人自体としては、配送センターの倉庫を埼玉県内に保有していたとのことです。
しかし、金融機関からの貸付金の担保として根抵当権(極度額3300万円)が設定されており、事実上の倒産をしたころには、手放し、また、本店所在地の父の家(なお、敷地は本代表者との共有。極度額3300万円)も手放したそうです。
本件申立てに添付された決算書類(一部)も、平成22年の会計年度のものだけでした。
また、銀行取引停止処分を受けたのは、平成24年7月11日であり、それまでは何とか銀行取引を続けていたようです。
しかしながら、3つの金融機関から借入元本の残金としては、1億2000万円以上ありました。
在庫品も、倉庫の処分のときに全部処分したことから、それらもありませんでした。
よって、換価する財産は何もない状態の法人の破産管財手続でした。
管財人に就任して官報公告がなされ、それを確認した帝国データバンクなどからの問い合わせがありました。
同調査会社などにおいても、本破産法人の倒産は、10年以上前の情報であり、法的整理未了とされているとのことでした。
交渉・調停・訴訟などの経過
本法人破産の申立ては、代表者の経済的更生を図るために、多額の保証債務(少なくとも1億2000万円以上)を負っている代表者の個人破産・免責許可が目的でした。
換価すべき財産が全くありませんでした。
また、運転資金の借入先の金融機関の預金口座も保有しているはずですが、いずれも残高とは相殺済みでしたので、預金の解約もありませんでした。
本事例の結末
第1回債権者集会において、破産手続を終了させるとして、異時廃止となりました。
本事例に学ぶこと
10年以上前に事実上倒産状態にあり、長らく法的整理を取らず、放置されてきた企業の代表者から相談を受けます。
放置したのは、やはり、破産申立の弁護士費用、破産管財の管財予納金の負担が当時はできなかったからという、費用負担がネックになっていることが多い印象です。
しかし、相談を受ければ、弁護士は、代表者の連帯保証債務も整理するならば、法人の自己破産と同時にとアドバイスすることになります。
代表者の方が確実に経済的更生を遂げ、そして、企業経営時に取引のあった債権者には、法人の破産申立により、税務上の貸し倒れメリットを享受差し上げるのが、経営者の目指す経営責任の取り方であると考えます。
時間の経過により、企業の財務資料などが散逸していることが多いですが、それでも、まずは、当事務所において、法人破産・代表者の自己破産の債務整理相談を受けていただければと存じます。
弁護士 榎本 誉