長引く不景気にコロナ禍の影響、原材料費の高騰や人手不足といった要因で、経営の苦しい製造業の会社が増えています。本稿では、製造業の会社が破産申立てする場合に注意すべきポイントを、製造業の特殊性に焦点を当てて弁護士が解説します。

破産申立てを考えている製造業の方へ

「製造業」と一口に言っても、金属製品、プラスチック製品、特殊機器・機械、紙類、衣料品、加工食品、またはそれらの原材料など、取り扱い分野は多岐に渡ります。

ものづくりは、間違いなく日本の基幹産業の一つと言えるでしょう。

しかしながら、長引く不景気にコロナ禍の影響、そこへ追い打ちをかけるように円安に伴う原材料費の高騰、人手不足と、悪い要因が次々と重なって、経営が苦しくなった会社も増えています。

事業資金として金融機関から借り入れをしている会社も多いですが、

「返済予定をリスケジュールしてもらったが、それでも返済が追いつかない」

「追加融資の相談に行ったが、断られてしまった」

などなど、資金繰りに頭を悩ませている経営者の方も少なくありません。

債務超過に陥り、これ以上業績の回復も見込めないという場合は、苦渋の決断として、会社を倒産させる、すなわち、会社の破産申立てを行うことも考えなければなりません。

その際、「製造業」だからといって、他の業種に比べて破産申立てが難しくなるということはありませんが、「製造業」ならではの特殊性に注意して進めることが必要です。

製造業破産の特殊性

一般的に、製造業では、

原材料や製品など多数の在庫を抱えていることが多い

特殊機械、製造設備を有していることが多い

回収未了の売掛金債権を有していることが多い

という特徴があります。

製造業を営む会社が破産申立てをするには、これらの在庫や機械・設備、売掛金債権を適切に処理していかなければなりません。

これらは会社の大切な資産ですから、申立の前後を通じて、不当に安い値段で売ってしまったり、散逸させたりすることのないよう、細心の注意が必要です。

以下、簡単ではありますが、上記の特殊性に関する注意点を見ていきましょう。

①原材料や製品など多数の在庫を抱えていることが多い

営業停止日までのスケジュールを前もって検討していた場合は、仕入れの量や作業ラインをある程度調節することで、在庫を沢山抱えた状態のまま弁護士のところに駆け込むという事態は防げると思います。

しかし、なかなかそうもいかないのが現実です。

まず会社に処分する権限があるのか確認を

今手元に残っている在庫(原材料や商品)については、裁判所に破産を申し立てる前に処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

しかし、いずれを選択するにせよ、そもそもの前提として、それらの在庫が会社の所有するものである(=会社に処分する権限がある)と言えなければ、こちらで売却したり、会社資産として保有し続けることはできません

極端な例ですが、「リース品であるにもかかわらず、これを自社の所有する在庫だと勘違いして売却してしまった」となれば大変です。

製造業では、委託者が原材料を提供して受託者が指定された製品を製造するという「委託製造契約」、受託者が原材料を調達して指定された製品を製造する「製造物供給契約」など、様々な契約形態があります。

そこで、まずは契約内容をよく確認し、会社にそれらの在庫を処分する権限があるのか、精査していくことが必要です。

時には、取引先が原材料の返還を求めてくることもあります。

このような場合は、安易に応じたりせず、必ず依頼した弁護士(申立代理人)に契約内容を確認してもらい、その指示を仰いで下さい。

申立前に処分するか、そのまま管財人に引き継ぐかを決める

在庫を処分する権利が会社にあることが分かったら、続いて、裁判所に破産を申し立てる前にそれらを処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

この選択は、基本的には、破産を依頼した弁護士(申立代理人)の判断に従うことになります。

例えば、足の早い生鮮食品類については、刻一刻と品質が劣化し、腐敗してしまいますから、至急、専門業者や同業者に声を掛け、適正な価格で売却・換価します。

また、生鮮食品類でなくても、

保管費用がかさむ場合(在庫保管のために倉庫を借りているなど)

季節商品など時間の経過とともに資産価値が劣化する場合

には、早期に売却・換価することが望ましいです。

複数業者の見積もりを取り、最も高値で買い取ってくれるところに売却します。

売却代金は会社の貴重な資産(財団)となりますから、後から、裁判所・管財人から見て「不当な廉価売買では?」と疑われることのないよう、適正価格で処分することが肝要です。

②特殊機械、製造設備を有していることが多い

こちらも、基本的な進め方は上記の①と同じです。

まずは、会社にそれらの機械・設備を処分する権限があるのかどうかを確認したうえで、裁判所に破産を申し立てる前にそれらを処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

まず会社に処分する権限があるのか確認を

工場などで長年使用してきた機械だからといって、会社に所有権(処分権限)があるとは限りません。

実はリースだった、ということもあるのです。

権限のないものを誤って処分しないよう、疑わしいものについては、必ず、契約書や決算書類を確認して下さい。

申立前に処分するか、そのまま管財人に引き継ぐかを決める

処分する権利が会社にあることが分かったら、続いて、裁判所に破産を申し立てる前にそれらを処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

機械・設備の場合は、生鮮食品類などの在庫と同じ理由で処分を急ぐということは少ないと思いますが、それでも、

処分しないと物件の明渡しが完了せず、余計な賃料が発生してしまう

会社の流動資産が少なく、申立費用が十分に用意できない

といった場合には、早期に換価・処分するという判断になると思います。

この場合も、複数業者の見積もりを取り、最も高値で買い取ってくれる業者に売却します。

処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継いだ場合は、管財人がそれらの機械・設備をなるべく高く売却・換価して、財団に組み入れます。

③回収未了の売掛金債権を有していることが多い

「取引先に商品を納めたけれど、まだその代金を回収していない」

こうした回収未了の売掛金債権も、忘れてはならない会社の資産です。

回収未了の売掛金がある場合、まずは破産を依頼した弁護士(申立代理人)が回収に動きます(弁護士名で通知書を送り、支払うべき代金を弁護士の預かり口座に入金するよう請求します)。

他の流動資産に乏しく、破産申立てのための費用を十分に用意できない場合、売掛金を回収することで申立費用に充てられる場合もあります。

申立代理人のもとで回収できなかった場合は、管財人に引き継ぎ、管財人から請求をかけて回収していくことになります。

なお、その売掛先に未払いがある場合、売掛金との相殺を主張されることがあり、場合によっては満額回収できないこともあるので、注意が必要です。

製造業の破産申立ては是非弁護士に相談を

長年継続してきた事業をいよいよ閉じるとなった場合は、以上の他にも、債権者対応(借入をしている金融機関、付き合いのあった取引先、業務の委託先など)従業員の解雇、本社や支店・工場の明渡しなど、やらなければならないことが沢山あります。

製造業を営む会社で、破産申立てをお考えの経営者の方は、一度、経験豊富な弁護士に相談して下さい。

相談にお越しになるのに、早過ぎるということはありません。

資金や資産が完全に枯渇してしまってからでは、破産申立てのための費用すら工面できず、かえって債権者や取引先に迷惑をかけてしまいます

当事務所では、これまで多くの製造業の会社破産をお手伝いしてきました。

経験豊富な弁護士がサポート致しますので、一人で悩まずに、是非お声掛け下さい。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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