Ⅰ全般
会社の破産手続とは、会社が、その支払い能力では総債権者に対する債務を支払えない場合に、債務者の全財産を強制的に管理・換価し、債務者と債権者間の権利関係を適切に調整して、適正かつ公平に清算する機会を確保する裁判上の手続をいいます。
この破産手続を開始するためには、裁判所への破産申立てが必要です。
破産の申立てがなされると、裁判所が破産原因(「支払不能」または「債務超過」)を判断します。「支払不能」とは、弁済能力の欠乏のために債務者が弁済期の到来した債務を一般的、かつ継続的に弁済することができないと判断される客観的状況をいいます。
また、「債務超過」とは、債務額の総計が資産額の総計を超過している状態をいいます。一般的には、資金繰りに窮して手形資金が用意できない等資金ショートが見込まれる場合には、破産原因があるといえます。
裁判所が破産原因を認めると、破産開始決定がなされ、これにより破産手続きが開始されることになります。
破産申立ては、原則として、法人の場合、主たる営業所の所在地、外国に主たる営業所を有する場合は日本における主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所とされています(原則的土地管轄(破産法5条1項))。
また、原則的土地管轄にしたがって管轄裁判所が決定されないときは、財産所在地の地方裁判所が管轄をもちます(補充的土地管轄(破産法5条2項))。
従って、一般的には本社・本店のある近くの裁判所に申し立てることが多いと考えられますので、例えばさいたま市に本社のある会社の場合は、浦和区にあるさいたま地方裁判所に申し立てることになります。
これらの管轄は、専属管轄であり、公益の観点から、当事者の合意によって管轄を変更できないこととなっています。
会社の破産申請に必要な費用は、大きく分けて①弁護士費用、②裁判所への予納金の二つです。
まず①ですが、当事務所規定では
負債
1億円未満 50万円~120万円
1億円以上5億円未満 80万円~200万円
5億円以上 裁判所に納付する保証金、その他諸事情を勘案して決定する金額となっています。
なお、法人と共に代表者も自己破産を申立てる場合、代表者については別途10~20万円の費用がかかります。
次に②は、破産手続開始決定後に破産会社の財産整理をする破産管財人への報酬とするための費用として裁判所に納めなければならないものです。
さいたま地方裁判所では、原則として20万円としています。
ただ、管財業務が相当量見込まれる事件などについては負債額に応じ予納金を下記のとおりとしています
負債
5000万円未満 70万円
5000万円~1億円未満 100万円
1億円~5億円未満 200万円
5億円~10億円未満 300万円
10億円~50億円未満 400万円
50億円~100億円未満 500万円
ただし、これらは実情に応じて変動する可能性があります。
会社と取締役との関係は委任関係にあります。委任関係は通常、一方が破産すると終了することになっています。また、会社の破産手続が開始すると、財産管理処分権は、破産管財人に専属し(破産法78条1項)、手続開始後、取締役には財産を処分する権限がなくなります。
ただし、財産管理処分権限と無関係な会社組織に関する行為(例えば、役員の選任や解任など)は、破産管財人の権限には含まれないと考えられており、取締役はこれらの行為については、破産をしたとしても会社との委任関係が当然には終了せず、その権限を行使することができるという裁判例があります(最判平成21.4.17参照)。
したがって、簡単に言えば、取締役の方は、会社の破産により職を失い、会社からの報酬は受領できなくなります。
なお、代表取締役の方は、法人の破産申立後、残務処理のため、破産管財人からの協力を求められることもあります。一般的にはこの協力についても無償ということになります。ただし、再就職まで妨げられるものではありません。
破産法では、従業員すなわち労働者を「使用人」と定義し、「使用人」の破産開始決定日の前3か月間の未払給料については、財団債権(破産法149条1項)として優先的に支払いを受けることができるとしていますが、役員の未払報酬は、一般破産債権として、通常の配当を受けるにすぎません。
このように、取締役としてのみ扱われるか、従業員の立場を有しているかで扱いが異なるため、「使用人」つまり従業員に当たるか否かが重要になりますが、「使用人」は、労務を提供して対価を受け取ることで生活を営んでいるかどうかによって判断され、パート・アルバイトといった名称や雇用・請負・委託等の形式的な契約形態にこだわらず、実態に着目して判断されることになります。
従って、「取締役兼従業員」も、実態に着目して判断されることになります。裁判例には、取締役兼従業員が、取締役としての実質的活動を行ったことがなく、専ら代表取締役が決定しており、単なる従業員として職務に従事していた事案で、取締役としての地位が全く名目的・形式的なものにすぎないとして、その取締役兼従業員の受領していた金員を全額「給料」として認めたものがあります(東京地判平成3年12月17日)。
破産の手続がとられたとしても、株主としての地位を喪失する訳ではありません。
しかし、破産会社の株主は利害関係人として扱われることはなく、破産手続内で会社財産からの配当が受けられる可能性は非常に低いと考えておくと良いでしょう。
なぜなら、会社が破産すると、破産財産をもって債権者に対する配当が実施され、残余財産が存在すれば、破産手続き終了後に通常の清算手続きによって株主に対する分配がなされることになりますが、破産をする会社に残余財産があることは通常はないため、株主に残余財産が分配されることはほとんどないと考えられるからです。
なお、株主は株式の限度で有限責任を負っているので、会社が破産手続申立をしたとしても、株式が無価値となるだけであって、会社債権者から、何かの請求を受けると言うことは原則ありません。但し、会社が破産申し立ての直前に株主に配当をしていたような場合には、不当利得として、返還を求められる可能性もないとは言えません。
会社が破産手続開始の申立をするには、取締役会決議が必要です(会社法362条4項)。
そして、この決議は、定款に特段の定めのない限り、取締役の過半数が出席し(定足数)、出席取締役の過半数の同意があれば成立します(会社法369条1項)。
したがって、取締役の1人が出席できないとしても、上記要件さえ満たしていれば、破産手続開始の申立はできます。
なお、出席といっても、テレビ電話会議や電話会議による取締役会の開催も一定の要件の下で認められますので、必ずしも現実に役員が一堂に会さなければならないというわけではありません。ただし、代理出席や持ち回り決議は認められないと考えられています。
また、取締役会を開催せず、取締役の1人が会社について破産申立を行うこともできます。これを、準自己破産といいます(破産法19条1項、2項、4項)。
ただし、準自己破産の場合には、破産申立を行うに際し破産原因を疎明(=裁判官に、疎明事実について一応確からしいという心証を生じさせること(確信より低いレベル))しなければなりません。
会社の破産は、会社の総財産を債権者に配分し、会社の経済活動に終止符を打つという手続です。これに対し、会社の民事再生は、収益を生み出す基礎となる会社の財産を維持し、会社自身(または会社に代わる第三者)がその財産を基礎として経済的活動を継続し、収益をあげる手続をいいます。
つまり、会社が破産する場合と民事再生する場合とでは、その会社が消滅するかどうかという点に大きな違いが表れることになります。
会社が破産手続をする場合の手順は、以下のとおりとなっています。
1 弁護士への相談・委任
弁護士に相談をし、破産申立を委任して下さい。
2 受任通知の発送
債権者に対し、破産手続のため弁護士が受任したことを明記した書面を弁護士名で送付します。ただし、受任通知発送前に破産申立をしてしまう事案もあります。
3 申立書・添付書類の提出
申立書と添付書類を管轄のある地方裁判所に提出します。
必要書類は
・商業登記簿謄本
・破産申立についての取締役会議議事録
・債権者一覧表
・資産目録
・代表者の陳述書
・貸借対照表・損益計算書
・確定申告書
などです。
4 債務者審尋
破産手続開始決定のため、裁判所が債務者または代理人弁護士と面接します。
5 破産手続開始の決定
破産原因が認められれば、裁判所は破産手続開始の決定をし、同時に破産管財人を選任します。
これにより会社の財産の管理処分権限はすべて破産管財人に移ります。
6 破産手続の進行
破産管財人が会社名義の資産等を売却し、また、未回収の売掛金の回収作業等実施します。その後、3ヶ月に1度程度、裁判所で債権者集会が開かれ、元代表者の方はこの債権者集会への出席が必要となります。
裁判所や事案によって異なりますが、
委任~申立 1週間~3か月
申立~破産手続開始決定 0~14日
破産手続開始決定~債権者集会 約3ヶ月(債権者集会を複数回開催する場合の間隔は2、3ヶ月程度)
配当 開始決定から半年~1年程度
といった時間がかかります。
会社の破産と一口にいっても、会社の置かれている状況はさまざまですから、破産申請をするタイミングもさまざまです。
例えば、金融業者や違法高金利業者の取立に追われている場合、手形不渡りによる混乱を防ぐ必要がある場合などは、早期に破産申請をし、会社を破産管財人の管理下に置き、公平な資産の分配を行う必要があります。
また、すでに資金繰りが苦しく、取引先への買掛金の支払いを怠っている場合、債権者が取り立てに来るなど現場が混乱し、そのためについ偏頗的な弁済をしてしまったりするおそれがありますが、この場合も上記と同様です。
これに対し、既に休眠状態にあるような状態であれば、債権債務関係について十分な事前調査をした上で、破産申立をするのが一般的です。
裁判所は,破産管財人の職務の執行のため必要があると認めるときは,郵便事業者などに対し,破産者宛ての郵便物などを破産管財人に配達するよう嘱託することができると定めています(「郵便転送嘱託」といいます)。
このような嘱託がなされている場合には,破産会社宛の郵便物は破産管財人に転送され、点検されます。これは、破産会社の財産状況を把握するためです。
弁護士が破産申立てを受任した場合、弁護士は債権者に対し、①破産申立てを受任したこと、②今後会社その他の関係者に対する直接請求をしないようにと要請すること等を通知します。
ただし、早期に破産申立をし、裁判所で破産手続開始決定を出してもらえるように事前申入するような事案では、弁護士からではなく、裁判所から破産手続開始決定通知がなされることにより債権者に連絡が入るということもあります。
まず、破産申立前の段階では、必要に応じて申立代理人となった弁護士が本社その他の営業所等に告示書を掲示し、債権者の強硬な対応を予防するとともに、弁護士が本社その他の営業所等に出向き債権者と直接対応することがあります。
また、破産手続が開始された場合、破産法上、債権者は、会社に対して、個別に取立行為をすることができなくなり、この場合も破産管財人に選任された弁護士が告示書を掲示し、債権者の取立行為を禁じる場合もあります。
したがって、会社に債権者が押し掛けたとしても弁護士、破産管財人と連絡をとりながら対処することが可能です。
債権者が倉庫などから在庫商品を持ち去ることは自力での債権回収を図ることであり、これは、自力救済を禁止する法の原則に反するもので、違法行為に当たります。
そのため、債権者が会社に押し掛けた際に在庫商品を持ち去ろうとした場合には、やはり弁護士から債権者に対して、会社の在庫商品を持ち去る行為は違法であることを説明してもらうことが必要です。
また、倉庫だけでなく、自社工場、資材置場や仕掛中の現場といった、商品や材料・機材・自動車等のある場所には、鍵をかけたり従業員を配置したりして内部に入れないようにし、持ち去りをした場合には刑事・民事上の責任を問われることを記載した告示書を掲示するなどして、適宜予防策を講じる場合もあります。
会社設立の手続をせずに、実際上会社という名称を使用していたに過ぎない場合、債務者は会社ではなく、その名称を使用して事業を行っていた個人です。
そのため、この場合には、会社の破産ではなく、事業主個人の破産手続を申請することになります。
会社に対する破産手続が開始された場合、破産管財人が破産会社の管理処分権限を有することになりますから、特別な場合を除いて、代表取締役社長としての職務を遂行することはなくなります。破産手続開始後は、代表取締役社長も破産管財人の指示にしたがうことになります。
なお、会社破産の場合には、代表取締役も多額の保証債務を負担しており、同時に個人破産をすることも多いです。このように個人破産も同時に行う場合には、法律上破産した役員と会社との委任関係が終了することになります。
会社が破産手続を行っている期間であっても、代表取締役が他の会社に再就職をすることは禁止されません。
もっとも、同時に代表取締役が個人破産をする場合には、破産した個人は、業種によっては資格制限を受けることがあります。例えば、警備員や生命保険外務員などは、破産が認定や登録の取消事由になっており、破産手続開始決定から免責許可が確定するまでの期間は、これらの仕事をすることができなくなります。
また、代表取締役は破産管財人から破産管財業務への協力等が求められる場合があります。
代表取締役は、会社という法人ではなく、個人(自然人)ですので、会社が破産したとしても代表取締役名義の個人資産には何ら影響しないのが原則です。
しかし、代表取締役が連帯保証などをしていた場合、代表取締役個人も破産申立を余儀なくされる場合があります。このように、代表取締役も個人破産をした場合には、代表取締役が所有する財産は、破産管財人によって換価、清算されてしまうことになってしまいます。
もっとも、代表取締役の財産のうち、いわゆる「自由財産」に当たるものについては、申立をして許可を受ければ、処分されずに手元に残すことができる場合があります。
例えば、①預貯金・積立金、②保険解約返戻金、③自動車、④敷金・保証金返還請求権、⑤退職金債権、電話加入権については、現金も含めて総額99万円の範囲内であれば、裁判所に申立てをした上で保有することが認められる可能性があります。
会社が破産したとしても、代表取締役の個人名義の財産がただちにすべて奪われるわけではありません。
しかし、会社の債務について代表取締役の自宅に抵当権が設定されていた場合には、抵当権者である債権者によって、担保権の実行としての競売等の手続が取られ、最終的には、自宅を手放さなければなりません。
また、自宅に抵当権が設定されていなかったとしても、代表取締役が同時に個人破産をする場合には、破産手続において管財人によって売却され、その代金が債権者に配当されることになります。
ただし、債権者の同意等があれば、親族等に任意売却することも可能ですので、破産手続の処理に慣れている弁護士に相談してみることも有益です。
会社が破産をした場合、取締役は、裁判所に対して、破産に必要な事項を説明する義務を負うことになります。そのため、代表取締役は、この義務を果たすために、法律上、申立てをして裁判所の許可を得なければ居住地を離れることができないことになります。
Ⅱ従業員関係
従業員は事態を察知していることも多いと思われますが、突然のことにショックを受け、破産申立の準備が混乱することも考えられます。
そのため、代表者は、申立直前に申立代理人である弁護士と共に事業所に赴き、破産申立てに至った理由を説明し、混乱が生じるのを未然に防止し、在庫等の資産や帳簿類の保全への協力、さらに破産管財人への協力を要請することが必要となります。
また、従業員の一番の関心事は給与(未払いがある場合は特に)、健康保険の切り替え、年金の処理、失業保険受給関係(離職票の発行等)ですから、これらの取り扱いについても、きちんと説明すべきです。
会社が破産手続を選択した場合、例外的な場合を除いて、申立前に従業員を解雇することになります。
破産申立てを理由に従業員を即時解雇した場合であっても、法律上、解雇予告手当(30日分の平均賃金)を支払う必要があります。
一般に解雇予告手当を支払わないでなされた解雇は無効と考えられています。
もっとも、破産申立ての状況下では、従業員も解雇を受け入れており、解雇を争わないのが通常であるといえるため、一般的には解雇を有効として手続きを進めればよいものといえます。
会社が社会保険に加入している場合、会社が破産の申立をして、社会保険事務所に廃業の手続をすると、健康保険証は使用できなくなります。
そのため、社会保険の任意継続手続(2年間に限り保険給付を受けられます)や国民健康保険への切替えの手続を行うことになります。
厚生年金の記録は残っていますので、厚生年金加入期間に応じた年金を受給することができます。
また、厚生年金基金(いわゆる年金3階建ての3階部分)は会社とは異なる法人が運営していますので、3階部分の厚生年金基金も受給できます。ただし、3階部分については、基金が存続していることが必要です。
会社負担部分に滞納があっても、厚生年金から会社が脱退していない限り、従業員の方の加入記録に影響はありません。
ただし、会社の方は、年金の支払い義務を免れるわけではありません。厚生年金の滞納保険料は財団債権にあたりますので、破産手続の中で優先的に支払われることになります。
少なくとも、年金手帳、離職票、源泉徴収票は引き渡す必要があると考えられます。
「年金手帳」は、厚生年金や社会保険に加入する際に社会保険事務所に提出する必要があるのですが、そのまま預かっている会社も多いため、この場合には返還する必要があります。その他、失業給付を受けるために「離職票」、年末調整や確定申告で必要な「源泉徴収票」も交付が必要です。
なお、従業員に対してではありませんが、市役所などの役場に対して「給与所得者異動届」、社会保険事務所に対する「資格喪失届」も提出する必要があります。
離職票と資格喪失届の提出(会社が提出します)があることで、失業給付は受けられます。さらに、会社が倒産した場合の従業員は、「特定受給資格者」と言って、手厚い給付日数となっています。ただし、受給できるためには、雇用保険の被保険者期間など要件を充足する必要がありますので、八ローワークにてご確認ください。
https://www.hellowork.go.jp/member/unemp_question02.html (実践319)
破産手続開始の3か月前より後の労働の対価としての給与は、「財団債権」とされ、支払が可能となれば破産管財人より支払されます。また、それ以前の労働の対価としての給与は、「優先的破産債権」となり、財団債権よりも劣りますが、一定程度優先して配当されます。
しかし、財団債権であれ優先的破産債権であれ、破産会社の資産がなく破産管財人が支払可能な程度の資産を回収できなければ未払い給与は支払されません。
なお、労働者の給与を支払うため、「労働者健康福祉機構」による立替払という制度があります(Q14,15参照)。
退職金支給規定がある場合には、破産手続終了前に退職した者の、退職前3ヶ月間の給料の総額に相当する額、または、破産手続開始前3ヶ月間の給料の総額のうちいずれか高い方を「財団債権」とし、この退職金の一部は破産手続で支払が可能となれば、最優先で支払されます。それ以外の退職金は「優先的破産債権」となり、財団債権よりも劣りますが、一定程度優先して配当されます。
賞与の支給が定められている場合、破産手続開始前3ヶ月間の間に賞与の支給日が到来し、支給日に在籍していた従業員に対する賞与が未払となっているは、財団債権として最優先で支払われます。
また、賞与の支給日が破産手続き開始決定日よりも後の場合でも、就業規則などで具体的な算出基準・支給金額・支給方法が明確に定められていれば、破産手続き開始決定前3ヶ月分は財団債権、その他は優先的破産債権として、配当される(支払われる)可能性があります。
ただし、賞与は「在籍要件」といって、支給日に会社に在籍していることが必要とされることが多いですので、破産手続き開始決定と支給日との前後にかかわらず、支給日に解雇されている場合には支払われることはないと考えられます。
未払いの経費は、従業員に対する債務(従業員の会社に対する債権)になりますが、給与や賞与などの労働債権とは異なりますので、一般債権として配当されることになります。
他方、仮払金は、会社が従業員に対して先に支払った費用ですから、返還してもらう権利(請求権)がありますので、こちらは、破産管財人から、従業員に対して、破産手続きの中で返還を求めるということになります。
「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて、企業が「倒産」したために賃金が支払われないまま退職をさせられた労働者(従業員)に対して、未払賃金の一部(8割)を、独立行政法人労働者健康福祉機構が会社に代わって支払う制度です。
但し、賞与その他臨時的に支払われる賃金、解雇予告手当、賃金に係る遅延利息、慰労金や祝金名目の恩恵的又は福利厚生上の給付、実費弁償としての旅費等は対象にはなりません。また、会社が労災保険適用事業で1年以上事業活動を行っていたことや、労働者が倒産等について裁判所への破産申立等が行われた日の6か月前から2年の間に退職していること、未払賃金の総額が2万円以上あることなどの条件を満たすことが必要です。
労働者健康福祉機構は、「立替払金の支払については、請求書に記入漏れや記入誤りなどがなければ、 請求書を受け付けてから30日以内にお支払いするように努めている」、と広報しています。しかし、記載内容の補正や提出書類の追加などが必要な場合はそれ以上の時間がかかることもあります。http://www.rofuku.go.jp/tabid/692/Default.aspx
源泉徴収による所得税の納付義務は、給与等を現実に支払う時に成立しますので、会社が従業員の給与等を支払い、源泉所得税を未納付のまま破産手続きの開始決定を受けた場合、当該未納額のうち、①納期限が到来していないもの②または納期限から1年を経過していないものは財団債権となり、破産管財人に支払い義務が課され、管財人によって支払われます。
なお、会社が源泉所得税を滞納していても、納税義務者は会社ですので、従業員個人には納税義務は生じません。
仮払金の返還など会社が従業員に対して有する債権と賃金・給与を相殺することは、従業員の自由な意思に基づく同意があると認めるに足りる合理的な理由があれば有効であるとされています(最高裁昭和48年1月19日判決)。
そして、破産手続であっても賃金は全額支払われるのが原則ですので、相殺をするためには、従業員との間で、給与債権についての相殺合意を得る必要が生じます。
会社が従業員のために借りていたものについては、通常、従業員を破産手続申立前に解雇しているので、会社若しくは破産管財人が賃貸借契約を解除しますので、賃貸人に明け渡さなければいけないことになります。
また、会社が自社物件を従業員に社宅として貸し出していた場合には、会社若しくは破産管財人は、破産を理由に契約を解除できません。したがって、従業員が賃料を支払いする限り当該物件に居住し続けることが可能です。ただし、従業員側で賃料の負担等を勘案して退去することは何ら問題ありません。
なお、自社物件が会社若しくは破産管財人により売却された場合であっても、新所有者に賃貸人の地位が移転しますので、新所有者が従業員との関係で賃貸人となりますので、従業員は居住が継続できます。
会社が所在していた建物は、賃貸借の場合には賃貸借契約の解約により、所有建物の場合でも破産管財人が売却処分すること等により、明け渡しが求められることになります。したがって、私物もやがて片づけなければならなくなりますので、従業員には私物の引き取りを求めることになります。
Ⅲ資産
裁判所に破産申立てがなされて、破産手続開始決定が出されるのと同時に、破産管財人が選任され、破産管財人が、会社名義の資産を管理、処分する権限を有することになります。その後、破産管財人が、その資産を換価(売却など)することで、債権者の配当の引き当てとなる財産を形成し、配当を行うことができるよう努めることになります。
会社の代表者等の関係者は、帳簿類を破棄してはいけません。会社が債務超過の状態にあるかどうかの判断資料として、また、会社名義の資産、債権・債務の調査のための資料として、直近の貸借対照表などの計算書類、決算報告書のみならず、その元となる帳簿類が必要となります。それらの書類がなければ、破産手続きをスムーズに行うことができませんので、大切に保管しておき、破産管財人に引き継ぐようにしなければなりません。
まず、破産申立を弁護士に依頼した以降は、原則として、代理人の弁護士に通帳類を預けていただくことになります。破産申立の準備に入った段階で、会社名義の預貯金を買掛債務の支払に充てるといったことはできません。
また、破産手続開始決定後は、破産管財人により全ての預貯金について解約され、破産財団(債権者の配当の引き当てとなる財産)に組み入れられることになります。破産管財人が、銀行等の金融機関に対して、解約に必要な書類を送付してもらい手続きをとることになりますので、会社の代表者等の関係者が行うことはできません。
破産申立を弁護士に依頼した以降は、会社名義の預貯金だけでなく在庫商品などの管理も弁護士に一任してください。納期の関係、生鮮食料品等処分時期が限定される場合等であれば適正価格で売却することも可能ですが、原則、そのまま保管をして破産管財人に引き継ぐことになります。
そして、破産管財人に引継された在庫商品については、破産管財人が売却することになりますので、会社代表者等の会社関係者が売却する必要はありません。
なお、破産管財人が売却する場合には、できるだけ高い値段で売るために入札方式がとられることも多いですが、特殊な商品等であれば販路が限られているため、会社代表者等に対して買取先について情報提供が求められることもあります。
原則として、支払い未了であったとしても返品する必要はありません。
代金の支払いを受けていない売主は、破産手続きの中で破産債権者として扱われることになります。もっとも、例外的に、売主が先取特権を行使して、競売開始決定まで取得しているような場合には、返品することについて慎重な検討が必要です。したがって、基本的には、破産管財人に未払の商品も含めて引継をすべきと考えられます。
委託を受けて預かっていた在庫商品については、預かり資産ですから、当然、売却することはできません。単に預かっている場合のみならず、売主(仕入先)との関係で、委託販売として商品を第三者に売却することができた段階で売買が成立するようにしているような場合もありますが、これも同様です。
いずれにしても、在庫商品の所有権は、委託者や売主(仕入先)にありますので、委託者らからの取戻権(所有権に基づいて返還を求める権利)を承認することになり、それらを売却することはできません。
破産申立を弁護士に依頼して以降は、従前どおりの流れで回収することはできません。会社名義の預貯金、在庫商品の処理同様、依頼した弁護士に処理を一任していただきます。なお、その弁護士の判断で、代理人弁護士名義で売掛金を請求する場合もありますが、多くの事案では、そのまま破産管財人に引継する、つまり、発送済み請求書の写し、請求書を発送していない場合は帳簿のデータを破産管財人に提出することになります。
そして、破産管財人が、独自に未収売掛先に対して請求することにより、回収を図って、それを破産財団に組み入れることになります。
従業員の退職等により事務処理が完了していない、締め日の関係などで、売掛金について請求書を作成していない場合もあります。そのような場合であっても、請求することができないということはありません。
まず、資料・データを確認し、場合によっては元の会社の経理担当者などと連絡を取り、契約関係を確認うえで、請求することになります。
破産申立前であれば、会社を代理して破産申立の依頼を受けた弁護士が売掛金の請求をすることができますが、多くの事案では、破産管財人に上記の作業を実施してもらい、破産管財人が売掛金を請求しています。
Q9
会社が破産する場合、使用中の会社名義のパソコンを社長が個人用として買い受けたいのですができますか。
A9
結論からすると、適正価格であれば可能です。
仮に無価値ではないかと思われる場合も、きちんと売買契約を締結して、代金を支払い買取すべきです。実務的にも、会社代表者が利用継続を希望するときは、代表者に対して、売却している事案もあります。その場合、適正価格を確認するため、買取業者等の見積をとるなどしています。
破産手続が開始されますと、破産管財人が、会社名義の保険についても、預貯金と同様、解約し、解約返戻金を破産財団に組み入れることになります。そして、契約者貸付が行われている場合には、これを控除した金額が解約返戻金となります(したがって、保険会社を債権者として扱う必要はありません。)。
特殊な工事でない限り一般的には、破産法53条が適用され、破産管財人がその工事についてキャンセル(解除)か続行(履行)の選択権を有することになります。
多くの場合、破産会社の資金繰り破綻を理由に工事が中断していることが多く、残工事を続行することができず、破産管財人としては残工事については解除を選択せざるを得ません。
そして、既完成の出来高部分については、請負代金の精算をすることになります。ここで、出来高が前受金を超えていれば、管財人はその差額を注文者に請求しますが、反対に前受金が出来高を超えている場合は、注文者はその差額を財団債権として請求できるとされています(最判昭和62年11月26日)。
なお、施主(注文者)から破産手続開始前に解除されていた場合は、前受け金の出来高超過分の返還請求権は破産債権となります。
自動販売機自体は、通常はリースですので、業者に自動販売機を返還する必要が出てきます。自動販売機の設置自体がどのような契約になっているかについては、契約内容を確認する必要があります。
販売機内の売上金については、自販機の中の商品の委託販売の場合(セミオペレーション)と買取り(フルオペレーション)の両方のケースがあります。後者では破産管財人に売上金を引き継ぎ、前者は納入業者に返還します。
結論から申し上げますと、適正な対価を支払していただくことにより、事業の承継をしていただくことは可能です。
ただし、対価の適正については判断が難しいところがあります。
例えば、事業を一体として引継する場合は、事業の価値を公認会計士等に評価してもらう必要がありますし、単に機械等を使用するというだけであれば、当該機械の買取価格を査定してもらうことになります。
いずれにせよ、破産申立を弁護士に依頼して以降は、その弁護士に必ず相談するようにしてください。
まず、基本的には破産管財人に引継するため、そのまま保管してください。
そして、破産手続開始決定後は、破産管財人が各パーツを売却することになるのですが、一つ一つのパーツを個別に売却するというのは、費用対効果の観点から現実的ではなく、まとめて売却することが多いといえます。
したがって、事実上、特定の会社が全てのパーツ類を買取するということが多いといえます。なお、メンテナンス用部品等については、従前、破産会社との取引があった納品先からの問い合わせが相次ぐということがありますが、売却がなされていればその売却先に問い合わせをしてもらうことになります。
非上場会社の株式の場合、市場での売却はできませんので、まず当該会社に買取を求め、または会社から買取人の斡旋を求めます。当該会社がこれを拒否する場合は、第三者への売却を試みることになります。
非上場会社の場合、非公開会社であることが多いため、第三者への譲渡を承認しないことも多いと考えられますが、このような場合は、会社から指定を受けた買取人に対して(会社が買取人を指定しない場合は会社に対して)株式を譲渡することができます。
このときの株式の買取価格については、1株当たりの純資産額を基準にする方法が考えられます。買取価格を協議で決められない場合は、売買価格の決定の申し立てをすることが可能です(会社法144条1項2項)。
いずれにしても、適正な価格で売却をする必要がありますので、破産管財人に株式を引き継ぐ必要があります。
特許権については、申請中のものも、ライセンス契約を締結しているもの、事実上、価値がないもの、様々な状況下にあります。
したがって、そもそも、譲渡することが可能なのか、譲渡可能であるとしても、資産価値としてどの程度のものか即断できない場合も多いです。
そこで、基本的には、破産申立時には処分をせず、破産申立後、破産管財人に引継、破産管財人が、裁判所の許可を得て、適正な価格で譲渡するということが望ましいと考えられます。
その場合、破産会社から、特許権の譲受先を推薦、紹介することは問題ありません。
ただし、価格や条件などを決定するのは裁判所、破産管財人ですから、あくまでも推薦、紹介程度しかできません。
まず、銀行に借入金の担保としてゴルフ会員権を預けていた場合は、銀行の担保(譲渡担保)が設定されていたことになります。この場合は、担保が設定されているため、会社の破産の際には勝手に処分することはできません。
次に、単に貸金庫に預けていたという場合は、会社の資産として処分することは可能ですが、名義書き換えが停止されている場合もありますので、この場合は処分はできないことになります。譲渡の際には、公正な価格での取引が必要になりますので、破産会社において処分するのではなく、破産管財人による処分の方が望ましいでしょう。
破産会社が、取引先と継続的な取引をしている場合に、取引先に取引保証金を差し入れている場合があります。
会社が破産する場合、取引先に買掛金などの債務が残っていると、取引先は取引保証金と買掛金との相殺をし、優先的に債権回収することが可能です。したがって、買掛金の残金次第では、取引保証金の返還は認められません。
なお、買掛金以外との相殺(損害賠償金との相殺等)を取引先が主張した場合には、相殺が認められるか否か微妙な場合もあるので、破産管財人の判断を待った方がいい場合もあります。
会社が破産する多くの場合、会社名義の本社土地建物には金融機関の抵当権などの担保権が設定されています。したがって、会社が破産する場合には、金融機関が会社の本社土地建物を競売にかけることになります。
ただし、競売の手続には一定程度の時間がかかりますし、破産手続開始決定後、破産管財人が業務をするために本社建物を使用する場合(例えば、在庫商品の搬出等)、一定期間、破産管財人が本社土地建物を管理占有することになります。そして、その間に、破産管財人がいわゆる任意売却といって、担保権を設定している金融機関の同意を得て本社土地建物を不動産仲介業者を通じて売却することもあります。
破産する会社が保養施設等として、リゾートマンションを所有している場合があります。この場合も金融機関の担保権が設定されている場合は、競売若しくは破産管財人による任意売却がなされることになります。
ただし、現在の不動産市況では、リゾートマンションなどは買い手が見つからないことが多く、そのような場合、適正価格にて破産会社の関係者等に売却することもあり得ます。
Ⅳ契約関係の処理
取引先から預かっている金型等は、そもそも破産者が所有する財産ではなく、取引先に取戻権が認められるので、原則として、直ちにこれを返還しなければなりません。
しかし、例外的に、取引先が返還を請求せず金型を使用しての製作物の供給を一定期間継続(他の取引先が見つかるまで等)したいとの申入があり、破産管財人がこれを受け入れた場合等には、引き続き金型等の使用を許されることになると考えられますので、保管を続けるということになるでしょう。
破産管財人が金型の使用を継続したという場合には、契約内容の履行が終了し、当該金型を使用する必要性がなくなった段階で、速やかに取引先に返還すべきこととなります。
リース物件はあくまでリース会社の所有するものですから、当該リース契約が解除されれば、所有権を有するリース会社に返還しなくてはなりません。
ただし、リース期間が既に満了している等の理由で、リース会社が引き揚げしない、その所有権を放棄するということであれば、所有権放棄書をリース会社から差入してもらった後、破産申立代理人若しくは破産管財人が適宜処分することになります。
リース物件が本社建物事務所内に残っていると建物事務所自体の明渡・処分等に影響することがありますので、会社が破産する場合、リース中のOA機器等は、速やかに処理をする必要があります。
まずは、当該割賦販売の契約書を確認する必要があります。
割賦販売の契約の中では、通常、分割払いが終了するまで売主(信販会社の場合もあります。)が商品の所有権を留保する内容の約定が定められています。このような所有権留保特約がついている場合には、商品である大型の印刷機械については売主に引き渡さざるを得ません。
多くのケースでは、申立代理人弁護士が受任通知を送るとすぐに、売主の方から引き揚げの要求が来ますので、それに従って印刷機械を売主(信販会社)に引き渡すことになります。
ただし、当該印刷機械の搬出費用等が高額となるといった理由から、売主がその所有権を放棄する場合があります。その場合は例外的な処理ですが、破産管財人が処分することになります。
自動車をローンで購入する場合、通常はローン会社が所有権を留保、つまり、信販会社名義にすることが一般的です。
そこで、まず確認すべきなのが、車検証の所有者欄が誰になっているかという点です。
自動車の所有者欄に、自動車販売会社や信販会社の名称が登録されている場合、その所有権留保は破産手続との関係でも有効(主張)できますので、原則として自動車は信販会社等に引き揚げられ、仮に処分価格が残債務額を上回れば代金を返還してもらいます(信販会社には清算義務があります。)。
これに対し、契約上は所有権留保の特約があるのに、所有者欄が破産会社の名称になっている場合には、その所有権留保は、破産手続きの関係では主張できないので、引き揚げに応じる必要はなく、破産管財人に自動車を引き継ぎ、換価手続をしてもらいます。
なお、登録制度の存在しない軽自動車は、占有が誰にあるかという点を基準に所有権留保の主張の可否が決まってきます。そこで、誰が軽自動車を占有しているのかを見極めたうえ、占有の認められる自動車販売会社や信販会社から引き揚げを求められた場合には、引き揚げに応じる必要があります。
残価設定型ローンとは、自動車購入時に自動車価格からローン終了時の残価設定価格(ローン終了時点での当該自動車の売却価格を予想したもの)を差し引いた金額を、分割払いしていくローンです。
このローンを組んでいた場合は完済後、①別の自動車に買い替える、②自動車を返還する、③残価の支払いをして自動車を買い取る、という選択肢があります。
しかし、残価設定型ローンの場合、残債務額の他にさらに残価を支払って、初めて自動車の買い取りができるわけですから、会社が破産している以上、②の自動車を返還するということになります。
取引のストップと違約金の発生が破産手続開始前であれば、その違約金は破産手続上「破産債権」となり、違約金を請求する取引先は破産債権者として扱われます。
これに対して、破産手続開始後に取引をストップし、違約金の支払いを請求された場合はどうでしょうか。
そもそも、破産債権とは「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であると定義されていますので(破産法2条5項)、破産手続開始後の不履行により生じる請求権は、破産債権にはなりません。
したがって、取引先が破産した後、「違う会社に急ぎ発注した関係で発注価格が高くなった。」、「あなたの会社が破産したから、自分の取引先に納品ができず、違約金を支払ったので、その分を破産会社に損害賠償したい。」という申出があったとしても、破産債権にはなりません。
破産する会社が売主である取引で、会社が商品を買主に引き渡したが、買主がまだ代金を支払っていなかったという場合には、その売掛金は、破産管財人が回収することになります。
また、破産手続開始決定前であっても、会社が既に商品を買主に引き渡している場合には、会社は申立代理人を通じて買主に代金の支払いを請求し、その回収を図ることが可能です。
これに対し、破産する会社が商品を買主に引き渡しておらず、買主の代金支払いもなされていないという場合には、破産管財人において、約定どおり商品を引き渡すことが可能であると判断すれば、そのまま商品を引渡し、売掛金を回収することが可能ですが、商品の引渡が不可能な状態であれば(どちらかというこのような場合の方が多いでしょう。)、契約を解除することになるので、当然、売掛金の回収はできません。
税務署は、滞納していた税金等を回収するため、国税通則法及び国税徴収法に定める国税滞納処分として、売掛金を差し押さえすることが可能です。
国税滞納処分と破産手続きとの関係は、破産法43条2項に定めがあります。
同項は、破産手続開始決定に先行する国税滞納処分について、「破産財団に属する財産に対して国税滞納処分が既になされている場合には、破産手続開始の決定は、その国税滞納処分の続行を妨げない。」と定めており、破産手続開始前に滞納処分に着手されている以上、差押えは有効になります。
従って、滞納処分により差し押えられた売掛債権については、債権の取立て等ができなくなり、売掛金支払義務を負う相手方も本来の支払先に弁済ができなくなります。
アフターサービスが、契約外のサービスとして事実上実施するものであるとすれば、法律上の債権とはいえないため、アフターサービスを行う義務はなく、納品先から求められたとしても拒絶することが可能です。
また、アフターサービス契約が存在する場合でも、破産後は破産会社の事業は停止することになりますので、当然、アフターサービスを実施することはできなくなります。
そのため、特殊な製品等を納品している会社が破産する場合には、アフターサービス等の措置をどうするのか、あらかじめ検討する必要があります。
電気や水道等のライフラインについては、破産法53条により、契約を解除するか履行するかが破産管財人によって選択されます。
破産申立日の属する月以降の供給にかかる使用料は財団債権となり、契約継続により直接的に破産財団を圧迫してしまいますから(契約継続期間が長引くほど他の一般債権者の配当に回せるお金が少なくなってしまいます)、工場用電気・工業用水は事業継続をしないのであれば直ちに解除すべきでしょう。
ただし、高圧の電気契約は、一旦契約を解約してしまうと、新たに契約を締結するのに高額の費用がかかるため、工場として当該不動産を売却する予定等がある場合には買受人の負担を増やさないようにするため、契約内容を変更した上で基本契約を維持するということも考えられます。また、工場内に機械警備設備を置き、使用している場合には、電気契約を維持する必要があります。
プロバイダー契約についても、同様に、申立日の属する月以降の使用料は財団債権になりますが、通常は会社が破産後にプロバイダーを使用することは想定されませんので、管財人の業務に必要なもの以外は早期に解約することになります。
会社名義の携帯電話で破産手続開始時に解約していないものは、直ちに解約すべきです。会社の名前で契約している携帯電話を引き続き役員や従業員が使用したいということであれば、契約者の変更をする必要があります。
この場合で、滞納している料金があれば、携帯電話会社との間で清算をする必要がありますが、この清算費用については、使用継続をする従業員等に負担してもらうことになります。
クレジットカードに関する契約をそのままにし、カードを保持していると、たとえそれまでの未払いがなくとも年会費が発生してしまいます。
従って、これについても早急に解約し、カードについてはカード会社に返却します。
破産管財人が選任されてからは、破産財団に所属する財産(会社の什器備品類、在庫商品、会社名義の車など)を破産管財人が引継ぎ、保管しますが、物件管理の面で管財人による管理のみで不足する場合には、盗難等防止等の必要があるため、破産法53条に基づいて契約を維持するか否かを検討します。
引き続き警備を依頼する場合、その対価(警備会社に支払う警備費用)は財団債権となってしまうため、警備の必要が全くないのであれば負担を減らすため、破産管財人は契約解除を選択することになります。
破産管財人は、賃貸借契約を継続するか解除するか選択することができるのが原則です(破産法53条1項)。
しかし、賃貸人が破産する場合、賃借人側に①賃借権の登記がある場合、②賃借人が店舗建物の引渡しを受けている場合などは、破産管財人はこうした賃貸借契約を解除することはできません。
従って、上記①②のような賃貸借契約は継続されますが、当該店舗を売却するにあたり、賃貸借契約を終了させた方が有利という場合には、適正な立退料の支払いをすることも含め、合意解約を検討します。
更に、賃貸店舗に抵当権が設定されている場合、抵当権者は破産手続きに縛られることなく、不動産の競売申立て等ができます。平成16年4月1日以降に締結された賃貸借の場合、賃借人は競落人に対して賃借権を主張できず、原則として買受けから6ヶ月間は引渡しを猶予され、その後は賃借権を失います(民法395条・平成16年3月31日以前の契約については、それが3年以下の期間を定めた建物の賃貸借契約である場合、競落によってもその賃借権は保護されます)。
そこで、破産管財人は、賃借権の消滅を防ぐため、抵当権者と協議し、店舗を第三者に任意売却して、買主に賃貸借契約の賃貸人の地位を承継してもらうこともあります。
会社が破産する場合には、借りていた工場の賃料の支払いも滞っていることがあるかと思います。そのような状況で、既にオーナーさんから賃料の未払いを理由に賃貸借契約を解除され、明け渡しを求められている時は、もちろん、できる限り速やかに、工場を明け渡さなければなりません。
オーナーさんから明け渡しについて何も言われていない場合であっても、会社が破産を申し立てると破産管財人が選任され、破産管財人は会社が締結している賃貸借契約を解除するか、それとも継続するかを選択することができます(破産法53条1項)。通常、破産管財人は賃貸借契約を解除することを選択しますので、会社としては、その時点で速やかに、借りていた工場を明け渡すことになります。
また、破産を申し立てる前に、申立代理人の弁護士の判断で、速やかに賃貸借契約を解除し、明け渡しを完了した状態で破産管財人に引き継ぐこともあります。
従って、会社が破産する場合、会社が借りていた工場は、原則として速やかに明け渡さなければなりません。
この問題は、賃貸人が賃借人に対して有する原状回復請求権(その物件を、貸し渡した当時の状態に戻すよう請求できる権利のことです)が、破産法上の財団債権にあたるかどうかによります。仮に財団債権にあたるのであれば、会社は、オーナーさんから請求を受けた時に修理費を全額支払わなければなりません。
この点、破産法が財団債権という優先的に弁済を受け得る権利を認めたのは、それらの債権が破産手続全体の利益になる共益的性格を有しているためですが、原状回復請求権は、そうした破産手続全体の利益になる共益的性格を有する債権とはいえません(物件のオーナーさんの利益にはなりますが、他の債権者も含めた全体の利益になるとはいえません)。
そのため、原状回復請求権は、同号の定める財団債権にあたらず、通常の破産債権であると考えられています。
従って、設問のケースでも、会社が操業中に壊してしまった壁の修理費は、明け渡しの際にオーナーさんから「全額すぐに支払って下さい」と言われても、支払う必要はありません。オーナーさんには修理費用相当額を債権として届け出てもらい、破産手続きの中で配当という形でお支払いすることになります。
なお、会社が敷金を差し入れている場合は、オーナーさんはその敷金から修理費等の原状回復にかかる費用を差し引くことができますので、結局、敷金の範囲内では優先的な回収が図れることになります。
「賃借人が破産した場合、賃貸人は当然に賃貸借契約を解除できる」という契約条項に基づく解除の有効性については、東京地裁平成21年1月16日判決は、このような契約条項は違法であると判断しました。
従って、「賃借人が破産した場合、賃貸人は当然に賃貸借契約を解除できる」という契約条項に基づいてなされた解除は無効と考えるのが無難と思われます。
また、破産管財人が賃貸借契約の解除を選択した場合に、契約中の違約金条項に基づいて違約金を支払う必要があるかですが、破産管財人による契約解除は通常の契約解除(賃料不払いを理由とする解除など、通常の場面における解除)とは異なりますから、たとえ契約書に違約金条項が記載されていたとしても、そのような条項に縛られるものではないと考えられています。
従って、契約中の違約金条項に基づいて違約金を支払う必要はありません。
敷金は賃貸借契約終了後明け渡しまでに生じる賃借人の一切の債務を担保するものですので、敷金を返してもらえるのは、賃借人が明け渡しを完了した時からです。
そのため、会社が破産する場合にも、破産管財人が賃貸借契約の解除を選択し、会社が物件の明け渡しを完了して初めて敷金を返してもらうことができます。ただし、未払い賃料等がある場合には、差し入れた敷金からその分が差し引かれた金額しか返してもらえないことになります。
逆に、会社が賃貸人であった場合には、破産管財人は対抗要件を具備した賃借権に対しては契約を解除することができず(破産法56条1項)、賃借人に対して物件を使用させ続けなければなりません(同条2項)。このように契約が継続する以上、受領した敷金もそのまま持っていてよいことになりますが、賃貸借契約終了時には敷金の清算処理が必要になってきます。この場合は清算後の敷金を直接賃借人に返還するのではなく、破産手続きを通して、配当という形で返すことになります。
なお、保証金の場合にも、基本的には敷金と同様の取り扱いになりますが、保証金が多額になると、敷金的性格の部分と貸付金的性格の部分とを区別した処理が必要になることもありますので注意が必要です。
この場合、破産管財人は土地賃貸借契約を解除するか、そのまま契約を継続するかを選択することができます。
解除を選択すると、建物を収去して土地を明け渡さなければならず、多額の費用が必要になります。また、借地上の建物には抵当権が設定されていることも多いので、そうした面でも建物の収去は難しく、事実上、解除を選択することは困難です。
そこで、破産管財人は契約継続=履行を選択し、土地賃貸借契約を継続させます(当然、その間は地代を支払わなければなりません)。
そのうえで、破産管財人としては、借地権付き建物の価値を適正に評価し、任意売却にかけ、なるべく早期に第三者に買い取ってもらうようにします。
借地権付き建物を譲渡するには、原則として地主さんの承諾が必要ですので(民法612条1項)、地主さんから承諾料を請求されることがあります。その場合には、承諾料の負担も考慮して買い受けてもらうことになります。定期借地契約で地主さんに保証金を差し入れている場合には、通常、保証金分も込みで買受希望額を決定します。
第三者で買受希望者がいない場合には、地主さんと交渉して借地権付き建物を買い取ってもらうこともあります。
会社が破産を申し立て、裁判所から破産手続開始決定が出されると、それと同時に破産管財人が選任されます。この破産管財人は、会社が締結している賃貸借契約を解除するか、それとも継続するかを選択することができます(破産法53条1項)。
契約を継続を選択するとそれ以降も毎月駐車場代が発生してしまいますから、破産管財人は、通常、賃貸借契約を解除することを選択します。そうすると、会社としては、その時点で速やかに、借りていた駐車場を明け渡すことになります。
駐車中の車がある場合には、別の場所に移動し、駐車場代が発生しないように気をつけます。
設問のようないわゆるサブリースの場合、破産管財人は、賃貸人(ビルのオーナー)との関係では、賃借人破産の場面として契約を解除するか履行するかの選択権がありますが、転借人(テナント)との関係では、賃貸人破産の場面と同様、物件の引渡を受けて対抗要件を備えている以上解除を選択することはできません。
転借人に貸し続けるためには、賃貸人から物件を借り続ける必要があり、結局、賃貸人との関係でも契約を解除することができなくなってしまいます。
しかし、このようにどちらの賃貸借契約も継続させるとなると、事務処理が負担になることはもちろん、賃貸人への賃料の支払いによって、債権者の配当に回すべき破産財団がどんどん目減りしてしまいます。
そこで、破産管財人としては、賃貸人と転借人の直接の賃貸借契約への切り替えを促し、破産会社を契約関係から離脱させるよう努めます。この時、賃貸人・破産会社間の敷金・保証金の額よりも、破産会社・転借人間の敷金・保証金の額の方が大きければ、そのままスライドする形での処理が可能です。転借人の敷金・保証金の差額は、破産債権として届け出てもらいます。逆の場合には、賃貸人、転借人の双方に条件の変更を検討してもらう必要があるでしょう。
この場合、会社(注文者)の破産管財人からも、工事を請け負った業者(請負人)からも、請負契約を解除することができます(民法642条1項)。解除すると、土木工事の出来高部分については、破産する会社の財産となります。請負人が破産手続開始までの間に行った工事に対する報酬・費用については、破産手続の中で配当を受けることになります。
一方、破産管財人も請負人も解除しない場合には、請負契約は依然として続いていますから、破産管財人は、請負人に対して、土木工事を続行するよう請求できます。請負人がこれに応じて工事を続けた場合、破産手続開始決定以降に行われた工事に対する報酬については、破産手続によらずに優先して支払わなければなりません。
さらに、この場合には、破産手続開始決定前の出来高部分についての報酬も、破産手続きによらずに優先して支払わなければならないとする見解が有力です。そのため、破産管財人としては、請負契約を解除して、工事の残りの部分については別途第三者と請負契約を結んで工事の完成をお願いしたりするケースもあります。
この場合、破産管財人は、そのまま建設工事を続行するか、請負契約を解除するか選択することができます(破産法53条1項)。請負人が破産した(裁判所から破産手続開始決定を受けた)ということだけでは、注文者の方から契約を解除することはできません。
破産管財人が工事の続行を選択した場合、破産会社ないしは第三者が工事を完成させます。工事の報酬については、破産管財人が注文者に支払いを求めることになります。
逆に、破産管財人が契約の解除を選択した場合ですが、この場合でも既に施工済みの出来高部分までは解除することができませんので、破産手続開始決定前になされた工事の結果は注文者に帰属します(建設途中のその物件は注文者のものになります)。破産管財人は、注文者に対し、その出来高部分に相当する報酬・費用を請求します。
一般的には、破産管財人が請負契約を解除し、未履行部分については別の業者と注文者が新たな契約を交わして、別の業者に工事を完成してもらうことが多いようです。
Ⅴ否認関係・相殺禁止・継続訴訟関係・その他
破産手続においては、破産開始決定前の混乱防止の要請及び財産形成すべき法人財産の確保の観点から可能な限り秘密裏に行う必要があります。迷惑を掛けたくないという気持ちは分かりますが、事前に取引先に話をしてしまい、破産するという情報が漏れてしまうと、債権者が事業所内の動産類等に対して自力救済を試みるなど法人の内外で混乱が生じ、法人財産を確保することが極めて困難となる可能性があります。
したがって、破産手続を行う前に、取引先に対して、むやみに話をするということは望ましくありません。破産手続申立の代理人弁護士が、財産状況や事業所等の現場の状況を把握し、債権者への対応を適切に行うことができる体制が整えられた段階で、代理人から受任通知を送付し、手続の方針、申立予定時期や連絡先等の情報を債権者に開示するなどの方法によって、できる限り混乱を招かないようにする必要があります。
連鎖倒産を回避するための制度としては、①中小企業倒産防止共済制度の利用(中小企業倒産防止共済に加入していれば、無利子・無担保での貸付を受けることが可能)、②セーフティネット保証(信用保証協会の保証枠を拡張することで、融資を受けやすくする)、③セーフティネット貸付(中小企業金融公庫等が、取引先の倒産により資金繰りが悪化している中小企業に対し、経営の安定化を図るために融資を行う)などがあります。
また、④全国の主な商工会議所、都道府県商工会連合会には、経営安定(倒産防止)特別相談室が設置されており、緊急経営安定対応貸付制度などの特別な貸付制度がありますので、そのような貸付制度の相談をすることも考えられます。
会社が破産したとしても、元従業員が申請することで、労災保険の給付を受けることができます。労災保険は、会社の従業員等の労働者が、仕事中や仕事が原因で労働災害にあった際に、被害に遭った労働者を国が補償して保護する制度であるため、会社が破産したとしても、元従業員への賠償金は支給されます。
会社が保険料を納めていなかった場合でも、保険給付はされます。また、退職によっても、保険給付を受ける権利は変更されることはないので(労災保険法12条の5)、会社が破産し、従業員の地位を失っても保険給付を受けられます。
なお、労災でカバーできない慰謝料等の損害賠償請求権については、その回収を図るためには、破産手続内において、破産債権として債権届出をする必要があります。
債務超過になっている状況で、3000万円相当の不動産を1000万円で売却している点が、破産会社の財産を減少させ、債権者の引当財産を減らす行為となるために、問題となります。
破産手続においては、破産者が債権者の利益を害するような財産侵害行為(詐害行為)や債権者の公平を害するような行為(偏頗行為)を行った場合には、破産管財人が、その行為の効力を失わせ、逸失した財産を破産財団に回復する権利が定められています。このような権利を、否認権といいます。
本件のように、債務超過の状況で不動産を安く売却する行為は、詐害行為と言えます。
このような詐害行為に対し、否認権を行使する要件は、詐害行為の存在に加え、①破産者の詐害意思、②受益者(破産者から財産を購入した者など)が行為の当時破産債権者を害する事実を知っていたことが必要です(破産法160条1項1号)。
本件の場合、破産者は債務超過の状況を認識しているため、破産者の詐害意思は認められそうです。
そのため、受益者である不動産の購入者が、購入当時、破産債権者を害する事実を知っていたこと、すなわち、破産者が債務超過にある事実を知っていたと認められる場合には、破産管財人により否認権が行使される可能性があります。
手形の不渡りの後に、財産的価値があるにもかかわらず動産類を贈与している点が、債権者の利益を害すると言えるために問題となります。具体的には、贈与行為が、詐害行為に該当すると判断され、破産手続において破産管財人から否認権を行使される可能性があります。
破産法160条3項によれば、支払の停止もしくは破産手続開始の申立ての後、又はその前6か月以内に破産者が行った無償行為は、否認権の対象となります。
ここで、支払の停止とは、破産者が、支払能力の欠乏のため、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示する行為をいいます。
本件では、破産者が手形の不渡りを出し、事業継続が困難な旨を同業者に相談していることから、支払の停止に該当するといえます。そして、動産の贈与は無償行為に該当します。したがって、破産管財人により否認権が行使され、動産の返還を求められることになります。
破産者が、自己の財産を適正な価格で売却した場合には、かかる売却は、原則として否認権行使の対象となりません。
ただし、破産者が、自己の財産の売却により得た金銭について、隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分する意思を有しており、その購入者がそのような破産者の意思を知っていた場合には、否認権行使の対象となります(破産法161条1項)。
本件では、破産者は、動産を適正な価格で売却しているため、動産の売却は原則として否認権の対象となりません。
ただし、破産者が、動産の売却により得た金銭について、例えば、自己の財産として隠し持っておこうと意図しており、動産の購入者がそのような破産者の意図を知っていた場合には、動産の売却は否認権行使の対象となり、当該動産の返却を求められることになります。
破産者が、自己の財産を適正な価格で売却した場合には、かかる売却は、原則として否認権行使の対象となりません。
ただし、破産者が、自己の財産の売却により得た金銭について、隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分する意思を有しており、その購入者がそのような破産者の意思を知っていた場合には、否認権行使の対象となります(破産法161条1項)。
本件では、破産者は、金融機関に相談した上で、オーバーローン状態の不動産を適正な価格で売却したものと考えられます。そして、破産者は、売却代金を担保権者である金融機関に弁済しているため、破産者には隠匿等の意思は認められません。したがって、かかる不動産の売却行為は否認権行使の対象とはなりません。
倒産を決意した段階で、会社の事業設備を贈与したり、新会社が負担すべき債務を肩代わりして弁済している点が、倒産会社の債権者の引当財産を減少させる行為であり、詐害行為と判断される可能性があります。
いくら息子が事業を継ぐとはいえ、倒産会社の債権者としては、息子の会社に代わりに請求ができるわけではないですし、倒産会社の設備等は換価すれば債権者への配当の原資になる可能性もあるにもかかわらず、それが息子の会社に逸出すれば、債権者の利益は侵害されるからです。
当然、受益者である息子の会社も、事業を引継ぐという息子としては、親の会社の経営状況などは把握しているはずですので、詐害行為として否認権の行使がなされたものと言えます。
また、破産法160条3項により、無償行為として否認権を行使される可能性もあります。
代表者自身の破産手続の5カ月前に、代表者が連帯保証をしている点が問題となります。具体的には、代表者による連帯保証が詐害行為に該当すると判断され、否認権(破産法160条)を行使され、配当を受けられない可能性があります。
破産法160条3項により、支払停止もしくは破産手続開始の申立ての後又はその前6か月以内に破産者が行った無償行為は、否認権行使の対象となります。
本件では、代表者による連帯保証は、保証料もとっていないため、無償行為に該当することになります(最高裁判所昭和62年7月3日判決参照)。そして、代表者による連帯保証は、破産手続開始の申立前6カ月以内になされているため、破産管財人により否認権を行使されることになります。したがって、代表者の破産手続から配当を受けることはできません。
破産手続申立を予定している状況で下請業者や職人らへ報酬等を支払ってしまうと、銀行にとっては、引当財産が減ることになり、債権者間において不公平が生じてしまうため問題となります。
そのため、このような行為が、支払不能の後になされた偏頗行為(債権者間の平等を害する行為で、特定の債権者だけが弁済を受けたり担保の提供を受けたりする行為)に該当すると判断され、否認権(破産法162条)を行使される可能性があります。
偏頗行為に対して否認権を行使する要件は、①既存債務についてなされた支払不能又は手続開始申立て後の債務消滅行為、担保設定等、②受益者が支払不能、手続開始申立等の事実を知っていたことです(破産法162条1項1号)。
ここで支払不能とは、債務者が支払能力の欠乏のためその債務のうち弁済期にあるものを一般的かつ継続的に弁済できない状態であることをいいます。
本件では、破産手続申立の予定であったため、支払不能の状況に陥っていた可能性が高いといえます。仮に、受益者である下請業者や職人らが、破産者が支払不能であることを知っていたと認められる場合には、破産管財人により否認権が行使され、報酬等の返却を求められる可能性があります。
債務超過の状態で、破産手続の3カ月前に、売掛金債権に債権譲渡担保の設定をしている点が、担保設定を受けて優先的回収を受けられる債権者と他の債権者との間で不公平と評価しうることから、偏頗行為に該当すると判断され、否認権(破産法162条)を行使される可能性があります。
もっとも、破産法上、否認権行使の対象となる担保設定行為は、既存の債務についてなされたものに限定されているため、新規の融資のためになされた債権譲渡担保の設定行為は否認権行使の対象とはなりません。
一方、既存の借入金に対する追加担保としてなされた場合には、否認権の対象となり得ます。
偏頗行為に対して否認権を行使する要件は、①破産者の義務に属しない債務消滅行為、担保設定等がなされたこと、②その行為の後30日以内に破産者が支払不能になったこと、③受益者が他の破産債権者を害することを知らなかったことです(破産法162条1項2号)。
本件では、売掛金に債権譲渡担保を設定したことは、義務に属しない担保設定行為に該当します。そして、債権譲渡担保の設定から30日以内に破産者が支払不能に陥り、かつ当該売掛金について、譲渡担保設定権者が破産者の唯一の財産であると知っていた場合には、破産管財人により否認権が行使される可能性があります。
A銀行が受任通知を受領した後に、破産者の預金口座に振り込まれた売掛金を相殺処理してしまうと、A銀行はたまたま入金された売掛金によって他の債権者に先んじて債権回収を図ることができてしまいます。これでは、破産手続における公平性が害されてしまいます。
破産法は、破産手続をとることを表明した後に、破産者に対して債権を有する者がその破産者に対して反対債務を負った場合には、相殺をすることができない旨が定められています(法71条1項3号)。
質問のケースでは、A銀行は、受任通知の受領後に、預金払戻債務という反対債務を負ったのであり、相殺処理は認められません。A銀行に対しては、相殺禁止を主張し、入金された売掛金の払戻しを求めることができます。実際には、窓口に赴いて入金されたお金の払い戻しを受けるなどの方法をとって破産会社の財産として、保管をします。
A社の破産手続開始決定後に車両を購入し、代金支払債務を負担している点が問題となります。このように、破産者が、破産手続開始決定後に負担した債務については相殺が禁止されているため(71条1項1号)、A社に対する売掛債権と車両の代金支払債務を相殺することはできません。
一方、A社が破産手続開始の申立を行う前に車両を購入した場合には、車両の購入時期と購入者(破産債権者)の主観的要件に応じて、相殺の可否が異なってきます。
まず、A社が支払停止となった後に車両を購入したときは、購入者がA社の支払停止を知っていた場合に、相殺が禁止されることになります。
次に、A社が支払不能となった後に車両を購入したときは、購入者が、①A社の支払不能を知っており、かつ②専ら相殺に供する目的を有していた場合に、相殺が禁止されることになります。
これらに該当しない場合には、A社に対する売掛債権と車両の代金支払債務を相殺することができます。
民事再生手続において、再生債権を自動債権として、再生債務者財産所属債権を受動債権とする相殺は、再生債権の届出期間満了時までに、相殺適状になることを前提として、その期間満了時までに相殺の意思表示をすることに限って、再生計画の定めるところによらないで可能となります(再生法92条1項)。
本件のように再生手続の開始を条件とする期限の利益喪失条項がある場合、多数の見解は、再生手続の開始時点において支払い期限の到来を認め、本ケースの場合、支払買掛金債務と売掛金債権は債権届出期間満了前に相殺適状(相殺が可能な状態)となると解しています。
したがって、再生債権の届出期間満了時までに相殺適状になっているため、その期間満了時までに相殺の意思表示をすることで、再生計画によらずに債権回収をすることが可能となります。
会社の破産手続開始決定により、破産財団に関する訴訟等は中断します(破産法44条1項、45条1項)。
その後、破産財団に属する財産に関する訴訟は、破産管財人又は相手方からの受継の申立がなされた場合に、続行することになります(破産法44条2項)。
破産債権に関する訴訟については、配当が見込まれる事案の場合、債権届出後の債権調査において当該破産債権に対し異議が述べられなければ、当該破産債権は確定し、訴訟は当然終了しますが、異議が述べられたときは、債権確定訴訟に切り替えられ、訴訟が受継することになります。
配当が見込まれない事案の場合、異時廃止により破産者たる法人が消滅することで訴訟は当然終了と処理されることや、債権者側で取下げをするということもあり得ます。
これらの行為が行われた場合、破産債権者が害されることになるため、行為者は処罰されることになります。
例えば、法人の代表者や取締役等の関係者(破産法40条)が、虚偽の説明を行ったような場合には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科に処せられます(破産法268条1項、2項)。
破産手続廃止決定が出た後に、隠匿していた財産が発見されたような場合には、配当手続における追加配当規定に準じて追加配当を実施することや、破産手続廃止決定を取消した上で配当を実施するなどの対応をとることが考えられます。発見された財産の価値が小さい場合には、管財人に対する追加報酬とされることもあります。
取締役は、会社に対し、善忠実義務を負っており、その一環として、取締役の地位や権限により、会社の営業に関して知り得た知識等を利用して競業行為を行うことは禁止されています(会社法356,365条)。
しかし、退任した取締役には、職業選択の自由があるため、特約が無い限り、原則として、競業避止義務を負いません。そのため、退任後に移籍した場合には、賠償請求は基本的には困難です。
ただし、在任中に既に競業他者への移籍の準備を行っていたような場合には、競業避止義務違反となり得ますし、会社への加害意図がある場合や悪質な態様による場合など、自由競争の範囲を逸脱するような背信的行為があれば違法行為と評価される可能性があります。このような場合には、賠償請求できる可能性があります。
そして、破産手続開始後は、破産管財人に財産の管理処分権は専属するので、破産管財人が主体となって請求することになります。
会社は、破産手続開始決定により解散し、その日を末日として当該事業年度を終了することになるため(解散事業年度)、その翌日から2カ月内に法人税や消費税の申告が必要になります。
この点の申告について、破産管財人が申告義務を負うと解されています。
ただ、解散事業年度において、破産する会社に所得が生じていることは稀であり、管財人が税務申告をする意義は、税金の還付を受けられる(財団の増殖を図る)場合があることや税の支払を免れる(財団の減少を防ぐ)ことにあります。
例えば、解散事業年度において欠損金が生じている場合には、繰戻し還付を請求することができ、前年度の法人税を滞納している場合については、その納付の必要がなくなります(欠損金の繰戻し還付)。
ただ、多額の還付も見込めず、税理士等に申告のための費用を支払うと財団の増殖に寄与しない(費用対効果として見合わない)場合には、事実上申告ができないこともあり得ます。
会社が破産する場合、その100%子会社は当然に破産するものではありません。破産手続において、破産する会社が有している子会社の株式は、破産会社の他の財産と同様、第三者に売却される(=経営母体が変わる)ことになりますが、当該子会社は会社としては存続することになります。また、第三者に株式が移転することを防ぐために、子会社の関係者等が親会社株式を買い取ることも考えられます。
しかし、親会社の破産により、親会社に対する売掛金が回収できなくなったり、親会社破産による信用失墜が子会社に波及して取引先が減ってしまうなどして、子会社も連鎖的に破産してしまうケースもあります。
破産手続上、破産管財人が、裁判所の許可を得て、事業を継続し(破産法36条)、他の従業員が代表取締役をつとめる会社に当該事業を譲渡することにより、事業を継続することは可能です(破産法78条2項3号)。
この場合、通常であれば必要とされる株主総会決議等の手続は不要とされていますし、民事再生手続きのように債権者の意見を聴く手続なども無いので、迅速に事業の継続がなされるメリットがあります。
ただ、破産手続をとることで、仕入先や得意先等が離れてしまうこともあることから、早期に事業の継続を実現する必要がある一方で、破産財団の最大化を目指す必要もあるので、譲渡代金の適正さも確保しなければなりません。
そのため、手続申立前の段階から、事業の譲渡先の選定や譲渡代金等について、十分な検討と準備を行い、合理的かつ迅速な事業譲渡を目指す必要があります。
破産手続における事業継続においては、困難を伴うこともありますので、倒産処理に強い専門家によくご相談いただくことをおすすめします。