令和5年(2023年)の日本の企業倒産は、前年に比べ大幅に増加し、8,690件(前年比35.1%増)であったそうです。会社のような法人の経営が立ち行かなくなり、債務の返済ができなくなった場合は「法人破産」という手続も選択肢として検討する必要が出てきます。
そこで、今回は法人破産の中でも建設業における破産手続のポイントについて解説をしていきます。
建設会社が破産する時に生じることが多い問題点について
法人破産とは
まず、「法人破産」とは会社が経済的に立ち行かなくなり、支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)となるか、債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態)となっている場合に検討することになります。このいずれかの状況になり、裁判所に破産を申立て、破産手続きが開始されると、会社の資産は債権者への配当などのため整理されていくのです。
法人破産の流れ
法人破産の場合、大まかに
- 申立て
↓
- 開始決定及び破産管財人の選任
↓
- 破産管財人による引継ぎ・管財業務
↓
- 債権者集会
↓
- 配当手続(換価により破産財団が形成できた場合)
↓
- 破産手続終了決定
という流れになります。
上記各段階のうち、①から③の段階において、建設業で特に問題となる点がありますので、以下詳しく見ていきます。
申立ての前後で問題となる点
(1)受注している工事がある場合
建設会社の破産となった場合、完全に休眠していなければ、まさに工事を受注している中で破産の手続を踏むこともあります。
その場合、現在受注している工事の現場を確認し、その場に告示書を張るなどして、現場を保全しておく必要があります。
工事がストップしていれば、工事用の機械や車両、資材などが現場に置かれた状態が続くことがありえますが、これらのものを盗難されるなどすると、会社の財産を散逸させていることになってしまい、破産手続に支障が出てしまいます。そこで、現場を施錠するなどして第三者や従業員・元従業員等も権限なく入れないようにすることが大切です。
また、受注している工事の発注者その他の関係者は、当該破産の債権者あるいは会社に対し債務を負う者となることが通常ですので、破産申立に当たっては、工事の受注状況を確認することも必要です。
(2)破産の準備に必要な協力について
受注中の工事がある場合、工事を中止することもあれば、続行することもあり得ます。工事の途中であっても、出来高の査定をする必要があるでしょうし、続行するとなれば人手が必要となりますから、従業員あるいは元従業員など、これらの対応に協力してもらう方を確保しなければなりません。
破産手続開始決定後の場面
(1)報酬等の請求
建設会社の場合、受注後工事が完了している場合は報酬が、あるいは中途である場合でも出来高報酬が、それぞれ発生している可能性があります。
既に完成していれば、契約どおりの報酬を請求すればよいとしても、出来高報酬を請求するのであれば、査定が必要になります。
査定には、工事関係の書類がなければなりません。工事図面や工事に必要となるデータ、工事報告書などがあるでしょうが、そもそもこれらのものが破産する会社にはなく、下請業者等に渡していると、それを取り戻さなければなりません。
また、発注者に対し受注している工事について協議をしたり、実施した工事あるいは今後実施しなければならない工事について従業員に聴取する必要もあります。
(2)関係者との調整
破産する会社に対して注文していた契約は、法律上、破産管財人によって解除することができるとされています。その結果、注文者には損害が生じることもありますが、発生した損害については(1)で判断された工事出来高報酬と相殺することはできないとするのが現在の破産実務となっています。
これに対して、元請会社が下請会社に代わって孫請会社に対し請負代金を立て替えられるという請負契約約款がある場合、下請会社の破産管財人が元請会社に請負代金を請求しても、立替払金と請負代金は相殺できるという裁判例があります。
注文者が破産した会社に請負代金を払わない状態であった際に、破産手続開始後に工事のミス(不完全履行)があったことが分かった場合にその損害賠償請求権と請負代金は相殺できるでしょうか。これも、破産法で定められている相殺禁止の適用はないとされているため、相殺できるとされています。
(3)保証金や前払金などの処理
工事の契約に際し、注文者から保証金や前払金が請負業者に払われている場合があります。これらの金員が、請負業者の財産だとすると、この受領している金員は「破産財団」として管財人の管理下におかれますが、このような前払金等は破産財団にはならない、とされている裁判例があります。
破産開始決定前に注文者が請負業者に前払金を支払っていた場合、その契約が破産手続開始決定後破産管財人から解除されれば、注文者はこの前払い金を返すよう請求できる債権者となります。
(4)事業を継続するかどうか
既に受注している工事につき、その工事を続行するかどうかということは破産管財人に選択権がありますが、契約は解除されるのが原則であって、契約を維持して工事を続行するためには収支の見込みや工事続行の体制づくりが可能であるか、工事続行のために必要な経費を用意できるかという点などを前提として、破産財産を増やすことが確実といえるような例外的な事情が必要です。
工事を続行することにより、労災などの問題が生じる場合もあり、労災保険が有効に存続しているかということも重要になってきます。工事の終了見込みが目前である場合は、短期の保険に加入することができるかも考慮します。
(5)従業員等への支払義務
工事等の会社の事業を支えていたのが、破産する会社の従業員であったのか、それとも下請作業員であったのか、という違いも重要です。
従業員、すなわち雇用契約に基づく関係であったのであれば、労働者健康安全機構による未払賃金の立替払いの対象となりえます。しかし、明確な雇用契約等はなく、依頼していた作業員が会社の指揮命令に服すことがないというようなケースにおいて作業員の労働者性を否定し、未払賃金立て替え払い制度が利用できないとされた事例もあります。
以上のとおり、現場で作業をし、労務提供の対価が生じる、という意味では同じ存在であっても、それが「従業員」か「下請作業員か」という判断は重要になるといえます。
(6)関係者との契約
業務に関する各契約相手との間で、破産手続開始によりその契約がどのようになるかということが変わってきます。
まず、注文者と破産する会社(受注者)との間では、破産管財人は、契約の解除あるいは破産する会社の義務を果たして注文者にも債務の履行を請求することができるとされているため、契約が維持される可能性もあります。
これに対して、下請業者との関係では、民法にて規定があり、請負人又は破産管財人が契約の解除をすることができるとされていますので、下請業者からも契約の終了を主張できることになります。
(7)公的な問題や汚染問題について
建設業を営む会社の破産では、会社が破産手続により解散すると、原則として破産管財人により建設業許可の廃業届を提出することになります。
また、業務のために所有していた資材や塗料等、産業廃棄物に当たるものがあれば、破産管財人が処理しなければなりません。破産管財人は産業廃棄物処理業者に依頼するため、そのような費用が掛かることを見越して、破産手続の引継ぎ予納金が高額に設定される場合もあります。このような費用が掛かってしまうことも、建設会社の破産の場合、念頭に置いておく必要があります。
まとめ
以上のとおり、建設会社の破産に当たっては、その業務の内容や関係者、事業に要する有形無形の財産の特殊性から、留意すべき点が多くあります。
破産を申し立てるに当たっても、上記のような考慮要素があることや、申立てに必要な費用の準備も重要になるため、経営危機が訪れたときには、一度お早めに弁護士に相談することをお勧めします。早めの対応により、破産手続という選択肢以外が検討できる場合もあるでしょう。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
社の破産においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。
危機時期にも適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。