旅行業とは
ひとくちに「旅行業」といっても、そのサービス内容は様々であるため、一般的な意味で旅行業とは何か、というのを一言で説明するのは難しいところです。
一方で、まさに旅行業をターゲットとしている「旅行業法」という法律があり、そこでは「旅行業」について以下のような定義がなされています(※長いので飛ばして読んで頂いても結構です。)。
旅行業法第2条第1項
この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。
一 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」という。)の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為
二 前号に掲げる行為に付随して、運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービス(以下「運送等関連サービス」という。)を旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為
三 旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
四 運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
五 他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為
六 前三号に掲げる行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
七 第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
八 第一号及び第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為
九 旅行に関する相談に応ずる行為
引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC0100000239
……定義が長い(多い)ですね。
それだけ幅広いサービス内容を提供する事業者が、まとめて「旅行業」と呼ばれているということになります。
代表的なところで言えば、
・旅程の作成、旅行費用のお見積りなどの旅行の相談全般
・宿の手配、旅行の交通手段(飛行機や新幹線、バス等)の手配
・旅行中のプログラム(レストラン利用や観光施設・体験イベント等)の予約や手配
・国外旅行の際のビザの申請、取得の代行
・ツアーの企画や催行
などが旅行業としての業務となります。
ちなみに、バス会社が自社のバスを使って日帰り旅行のサービスを行う場合は法律上の旅行業には分類されません。
あくまでバス会社の事業(運送事業)になるということです。
法律上の「旅行業」を営む場合には、観光庁長官又は都道府県知事による旅行業の登録を受ける必要があります。
登録については業務範囲や営業保証金・基準資産などの登録要件の差でいくつかの区分分けがなされていますが、破産をする場合の手続の流れに大きな差はないと思われますので、この記事では省略します。
法律上の「旅行業」を営む旅行会社が破産する場合には、基本的には事業を廃止する(譲渡する場合もあります。)ことになりますから、この旅行業の登録も廃止の手続をする必要があります。廃止の手続は、事業廃止から30日以内に、事業廃止届出書を登録行政庁(区分によって窓口が異なります。)に提出して行います。
旅行業の破産手続の特徴・注意点
旅行業が破産する場合の大きな特徴としては、
①債権者である顧客が広範囲かつ多数になる傾向がある。状況も様々である。
②顧客(旅行者)の混乱回避のために段取りが重要になる。
③営業保証金、弁済業務保証金制度の存在
の3つが挙げられると思います。以下詳しく見ていきます。
①債権者である顧客が広範囲かつ多数になる傾向がある。状況も様々である。
旅行会社は、個人のお客様であれ団体のお客様であれ、とにかく数多くのお客様に対して旅行に関するサービスを提供することになります。
また、その場で物の売り買いがされる小売業と違って、旅行は数日前~数か月前に予約をするということが一般的です。
そうすると、契約関係のあるお客様が常に多数存在することが多く、結果として破産した場合の債権者数も多数になる傾向があります。
さらに、昨今ではウェブサイトやアプリでの申し込みも一般化していることから、お客様が店舗を訪れる必要が無くなり、お客様自身の住所地は日本国内(あるいは海外も)どこでもあり得る状況です。
場合によっては、お客様がすでに旅行中で、旅行先にいるということもあるでしょう。
このように、お客様(債権者)の地理的範囲も広範囲になることが多いと言えます。
加えて、そのお客様の状態も、旅行の予約の申し込みがあっただけの状態から、すでに支払いも済んでおり宿や航空券等の手配が完了している状態、今まさに旅行中の状態まで、さまざまな状況があり得ます。
したがって、どの債権者について、どのような債権債務があるのか把握することさえ、大変な困難を伴う作業になると言えるでしょう。
このように、旅行業の破産を考える上では、債権者になり得る「顧客・お客様」の存在をどのように捕捉するか、扱うかということが大変重要ということになります。
そこで、以下の②が重要となってきます。
②顧客(旅行者)の混乱回避のために段取りが重要になる
何の段取りもせず、ある日突然「事業停止しました。破産申立しました。」というアナウンスだけをしたとすると、どうなるでしょうか。
取引先事業者はもちろんですが、一般の顧客であるお客様は大混乱となるでしょう。
店舗があれば店舗に、担当者がいれば担当者に、いなければ問合せ先の電話番号やメールアドレス等に、問合せや苦情が殺到することは火を見るより明らかです。
それだけではありません。
上記①でも説明しましたが、旅行会社は宿や航空券等の様々な手配を行いますが、現在、予約はされているのか(有効なのか)、旅行会社から宿や航空会社への支払いは済んでいるのか等、それぞれのお客様の状況というのが千差万別となります。
したがって、旅行会社から説明するにも準備と人手が必要ですし、お客様の方から宿や航空会社等に直接問い合わせがいくことも考えられます。
また、旅行中のお客様についても、万が一旅行先の宿や帰りの航空券の支払いがなされていないということであれば、旅行に出た先でトラブルに巻き込まれるということもあります。それが海外旅行であれば、国際的な問題にもなり得ます。
過去に、ある日突然、破産申立てを公表し、お客様をはじめ多方面に大きな影響を与えた事件として、「株式会社てるみくらぶ」の破産申立事件がありました。この記事では詳しくは言及しませんが、この件では上記のような点に関する配慮はほとんど行われず、特に旅行中のお客様への影響が大きく、社会的な問題になりました。
このように、段取りを全く無視して事業停止・破産申立てをした場合は、旅行会社とその債権者だけでなく、周囲も大きく巻き込んだ大混乱ということにもなる可能性がありますので注意が必要です。
経営が危ない、破産のおそれがあると思われる場合には、(理想としては)ある程度の準備期間を置き、その間に混乱回避のための方策(お客様の新規募集停止、基幹システムや予約システムの維持(リース料の支払継続等)、他事業者への引継ぎ、問合せ先の整理や案内等)を用意しておくことが望ましいと言えます。
③営業保証金、弁済業務保証金制度の存在
お客様の立場からすれば、旅行会社が破産して旅行に行けないのであれば、払い込んだ旅行代金は返金して欲しいというのが自然な願いだと思います。
一方で、破産の手続上は、お客様もひとりの「債権者」として扱われますので、他に優先して返金を受けられるのではなく、破産手続のなかで配当を得るということになります。
ただし、配当を得るまでには時間がかかりますし、負債額や債権者数が多いために、微々たる金額しか配当されないことも多いと思われます。
そこで、お客様を守るひとつの手段として、営業保証金の制度と弁済業務保証金の制度が存在しています。
まず、営業保証金についてですが、これは旅行業の登録をする際に供託金として預ける資金のことです。登録の区分(主として取り扱う業務内容の差)によって預け入れる金額に違いはありますが、旅行会社が破綻するなどして債務不履行が生じた場合に、お客様が還付の手続をとることによって、保証金から弁済を受けることができます。
この制度が利用できるのは、旅行業協会の正会員以外の旅行会社の場合です。
なお、破産申立をする際には、原則としてこの営業保証金(厳密には営業保証金の取戻し権)も財産として財産目録に入れて管財人に託すことになりますので、漏れが無いよう注意が必要です。
次に、弁済業務保証金ですが、これは旅行業協会に当該旅行会社が加入していた場合に使うことのできる制度です。旅行会社の債務不履行があった場合に、お客様が旅行業協会に申出ることによって、旅行業協会が供託している弁済業務保証金から弁済を受けることができます。
なお、この弁済業務保証金制度に関連して、旅行会社は旅行業協会に対して「弁済業務保証金分担金」を納付しているはずですので、この返還請求権についても、上記と同様、財産目録に記入する必要があります。
こういった制度については、お客様自身での手続が必要となるため、上記②の段取りの一環として、お客様への周知方法(例えばウェブサイトやアプリを通じた通知等)を検討する必要があると言えるでしょう。
法人破産の流れ
1 ご相談
会社の社長などにご来所いただき、弁護士が、会社の経営状態、資産・負債の内容をお聞きするとともに、どのような手続を取るのがよいのかのアドバイスを行います。
2 お打ち合わせ①
必要書類・資料をお持ちいただき、弁護士、法務スタッフが、社長、経理担当者の方などと詳しい打合せを行います。また、裁判所に提出する委任状、当事務所にご依頼いただく場合の委任契約書を作成します。
資料の例:貸借対照表・損益計算書、資産目録、債権者・債務者一覧表、不動産登記簿謄本、賃貸借契約書、預貯金通帳、法人印鑑・ゴム印など
3 現地の調査・従業員に対する説明
・現地調査
本社、営業所、工場などに出向き、現地の状況を調査するとともに、場合によっては弁護士が受任した旨の公示書を貼ります。
・従業員への説明
従業員に対して、破産申立てに至った理由を説明し、在庫などの資産や帳簿類の保全への協力、破産管財人への協力を要請します。
給与、健康保険の切り替え、年金の処理、失業保険受給のための離職票の発行などについても、きちんと説明します。
4 受任通知の発送
以後は、弁護士が債権者との対応をすることになります。
5 お打ち合わせ②
ご依頼を受けた後、弁護士が裁判所に提出する破産申立書を作成しますが、その中で出てきた不明点の聞き取り、不足・不十分な書類の補充などのための打合せを行います。
6 賃貸物件の明け渡し
賃借物件がある場合、状況によって破産開始決定前に明渡しを行います。
7 裁判所に対する破産申立書の提出
裁判所に対して、破産申立書を提出します。
※ なお、上記3~6を行わず、事前に裁判所と相談したうえで、申立書を裁判所に提出する場合もあります(密行型)。
上記3~6を行うのは、オープン型と言って、すでに支払いが滞納していたり、債権者が来ていたりする等の場合です。
また、当然、事案に応じて、上記3~6やそのほかの対応を、上記の順序と異なる順序で行うこともあります。
8 裁判官との面接
会社の社長、経理担当者などと弁護士が裁判所に行き、破産に至った経過、資産・負債の状況、従業員、債権者、賃借物件の状況、その他の問題点について、裁判官から質問を受けます。
この時に、裁判所に納める予納金の額も決定されます。
※開始前の面接が行われない場合もあります。
9 破産開始決定
破産開始決定がされ、破産管財人が選任されます(裁判所が選任した弁護士が破産管財人になります)。
10 破産管財人との面接
会社の社長、経理担当者などと弁護士が、破産管財人の法律事務所に行き、破産管財人から質問を受けます。
11 資産の処分・配当
破産管財人のもとで、会社の資産の換価、売掛金の回収が行われ、これを債権者に配当します。会社が、一部の債権者に不公平な弁済を行っている場合は、破産管財人がこれを取り戻します。
12 債権者集会
裁判所で債権者集会が行われ、破産管財人が、破産に至った経過、資産・負債の状況、配当の状況などを説明します。ただ、出席して説明を聞いてもあまり意味がないと考える債権者の方が多く、債権者は出席しないか、数名の出席の場合が多い印象です。
配当が終了していない場合は、さらに債権者集会が開かれる場合もあります。
配当するほどの財産がない場合、配当をしないで破産手続が終結することがあります。
13 破産終結決定
これによって、破産手続きは終了し、会社は解散となります。
※ 破産申立書を提出してから、破産終結決定までにかかる時間は、不動産の処分や売掛金の回収にかかる時間、不公平な弁済の有無、配当の有無などによって異なりますが、一般的には6ヶ月~2年程度です。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴
開設以来、数多くの法人破産申立・破産管財事件・代表者破産に対応してきた弁護士法人グリーンリーフ法律事務所には、破産手続に精通した弁護士が数多く在籍し、また、法人破産専門チームも設置しています。
このように、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所・法人破産専門チームの弁護士は、破産手続や代表者保証に関する法律相談を日々研究しておりますので、法人破産や代表者の債務整理に関して、自信を持って対応できます。
法人についてお悩みの経営者・代表者の方は、ぜひ、当事務所にご相談ください。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
社の破産においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。
危機時期にも適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。