紛争の内容

依頼者は、建築業を営む株式会社の取締役でした。新型コロナウイルス感染症の流行により、仕事を受注することができなくなりました。金融機関から融資を受けながら、経営再建を目指すも、状況は好転せず、会社をたたむ決意をするに至りました。

交渉・調停・訴訟などの経過

依頼者が経営していた会社は、工事受注を全くできなくなっており、従業員は全て解雇済みであり、また、工事設備・在庫品等全て処分されていた状態でした。そのため、事務所として利用していた賃借物件の明渡し、リース物件の返却、売掛金の回収等はスムーズに行われました。
債権者の大半は金融機関であり、債権者対応はスムーズに進みました。もっとも、少数の債権者との間では依頼者との人的関係があり、できる限り当該債権者への迷惑を最小現にとどめられるよう、弁護士が間に入って清算処理をするに至りました。
本件で問題となったのは、同社の共同代表であった取締役と連絡が取れなくなってしまい、法人破産を決断するための取締役の過半数の決議が得られないことにありました。依頼者も何とかこの共同代表であった取締役とのコンタクトを取ろうと尽力したものの、それ以上進むことができませんでした。そこで、残った取締役である依頼者を申立人とする、準自己破産の途を選ぶことになりました。
もっとも、裁判所としては、どうにかして共同代表取締役と連絡が取れるはずで、通常の自己破産の手続を行うよう指示をされました。そこで、本件の具体的な特殊な事情(実は共同代表は刑事事件を起こして服役中であること)を詳細に説明して上申し、予定通り準自己破産の申立をするに至りました。
また、依頼者自身、会社の金融機関からの借入の保証人になっており、莫大な金額の保証債務を履行することはできないため、個人としても自己破産の申立をするに至りました。
申立後、共同代表取締役が関与していた不明瞭な事情が次々と明らかになり、破産管財人からの問い合わせ
・指示への対応に追われることとなりました。もっとも、取締役であった依頼者が誠実であったため、依頼者と協議を行いながら、適切な対応をしていくことができました。

本事例の結末

最終的に、法人自体に財産はなく、異時廃止となりました。依頼者個人についても、異時廃止となり、免責決定を受けることができました。

本事例に学ぶこと

破産手続申立に向けて、依頼者と綿密にコミュニケーションを取りながら手続を進めていても、いざ破産手続開始決定が出て破産管財人が付いてから初めて発覚する事情が出てくることがまま見られます。申立前から依頼者と十分なコミュニケーションを図ることができていたおかげで、破産管財人からの突然の指摘にもスムーズに対応することができました。予想しない出来事に直面しても冷静に確実に対応ができるよう、依頼者と丁寧で綿密なコミュニケーションを図っていたことで、無事解決に至った事案です。

弁護士田中智美 弁護士平栗丈嗣