事案の内容

依頼者である電気工事事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響(コロナ禍)により予定していた請負工事が進捗せず、その役情報収入金のスケジュールが予定から大幅に変更になり、資金繰りがショートすることが確実となりました。金融機関からの返済のリスケジュールの協力も得られず、事業廃止やむなしと判断され、法人破産申立てを決意するに至りました。

経過

当該法人は、弊所で依頼を受けた時点でまだ事業継続中でありました。
そこで、まず、従業員全員の解雇、仕掛工事の引継ぎ、賃借事務所の明渡し、リース物品の返却等の手続を行っていきました。
並行して、法人の経理・人事等を行っていた元従業員の協力を得ながら、破産手続申立ての準備を行っていきました。
当該法人が事業活動を行っていた不動産は、元所有物件でしたが、いわゆるリースバックした賃借物件でありました。
事務所賃貸借を解除し、明け渡しを遂行し、賃料相当損害金を極力低減する必要がありますので、不動産明渡し実現のために、同事務所内のリース物件の返却、建物1階駐車場の自動車の売却処分、換価不可能な不要品の搬出、廃棄処分等を行い、事務所の明渡を完了させました。
従業員との関係では、給与の未払いもありませんでしたので、最後の給与分を支払うことができたものの、事業停止とともに直ちに全従業員を解雇したことにより発生する解雇予告手当については、直ちに支払うことは控える選択をしました。
これは、建設業界における下請け業者として、従業員の社会保険完備が条件となっているところ、元来、一人親方としてさらに下請負をしていた職人を正社員雇用としたことから、社会保険の充実と引き換えに、手取り額が減額されることを回避する便法の処理を行い、社会保険料の納付額は正規の計算とは異なることになっていたという事情があり、その再計算が必要であるため、解雇予告手当の対応は管財人にゆだねようと判断したからです。
当然ながら、破産申し立てを理由に解雇された元従業員たちの中には、解雇予告手当の支払いを切望する方がおりますが、そのような説明は会社側の事情であるとして、当然承服しない方もありました。
そのような元従業員は、早急に解雇予告手当を支払うよう、弊所申立代理人弁護士・破産管財人弁護士に対し繰り返し強く主張していました。
そこで、申立代理人からは、元従業員に、根気強く説明し、その都度説明を繰り返していきました。

本事例の結末

最終的には、財団債権・優先的破産債権の支払いをするだけの破産財団が形成されたため、元従業員に対する解雇予告手当は支払われるに至りました。
また、不明朗な会計処理を行っていた部分もありましたことから、管財人は税理士に依頼し、正規の申告をし直し(更正し)、納付しすぎた税金の還付も更け、財団の従属を図りました。
結果、一般破産債権に対して配当が行われました。
ただ、法人の借入の保証債務を履行することができない会社代表者も同時に破産手続申立てを行い、無事免責許可決定を受けることができました。

本事例に学ぶこと

本件では、法人の経理・人事等を担っていた従業員の協力を得ることで、迅速な申立てにあたって必要な資料の入手及び調査、従業員に対する解雇予告手当の計算等を行うことができました。
資金繰りに窮している法人の破産申し立てを行う場合、特に事業継続中の法人破産にあたっては、仕掛中の工事などの対応とともに、従業員関係における対応について、このような知見を有する従業員の協力は非常に重要となります。
当該従業員だけを特別扱いすることはできませんが、法人破産をするに至ってしまった事情を充分に説明し、協力してもらえる協力体制を維持することが肝要です。もちろん、労働の対価としての賃金を支払います。

弁護士 榎本 誉
弁護士 相川一ゑ
弁護士 平栗丈嗣