事案の概要
代表者は数名の従業員とともに自動車修理工場を経営していたが、数年前から持病が悪化し経営に関与できなくなった、従業員が引き継ぎ、何とか経営を継続してきたが代表者が亡くなってしまい、いよいよ経営を継続することが困難となった、その後、代表者の配偶者が形式上の代表者となり法人の破産手続申立てを行ったというケースについて破産管財人に選任されました。
主な管財業務の内容
代表者の配偶者は従前経営に関与しておらず、代表者が経営から離れていた期間の経理上の処理が不透明なままになっているという事案でした。
帳簿上の記載と通帳等の客観的資料が正確には一致しないという状況でしたので、残存する資料から法人の財産が散逸していないかのチェックを行うことになりました。
帳簿等をもとに、経理上の処理に疑問が残る部分について、元従業員に聞き取りを行うなどして辻褄があうか確認したところ、おおよその整合性は取れましたので、次いで、整理した財産関係の処理に入りました。
代表者の持病に起因して法人として請求できる保険契約等がありましたので、保険金を受領するなどしたところ相当程度の財団が形成されたため、配当の可能性について検討することになりました。
直近では法人として税務申告ができていない状況が続いていたため、各種税金といった財団債権のボリュームを確認するため、事後的に確定申告を行うことにしました。
確定申告を行ったところ、100万円を超える滞納税金の存在が判明し、ここまでに形成された財団ではその全額を弁済することができないということが分かりました。
本事例の結末
財団債権について全額の弁済ができない以上、一般債権者に対する配当はできないということになりますので、本件については財団債権を按分弁済するという限りで財団の処理を終了することとなりました。
本事例に学ぶこと
実際に業務を行っていた代表者が亡くなり、法人の後始末を代表者の相続人が行うということがあります。
日頃から法人の経営に携わっている相続人がいれば別ですが、そうでない場合には手元に残っている資料や通帳から分かる範囲で法人の破産手続の申立てを行うことになります。
通常のケースでは帳簿上の記載と実際の状況が異なる場合にはそれをつなぐ理由の説明を行うことができますが、事情が把握できていない場合には十分な説明をすることができず、管財人がその部分について改めて調査を行うことにより破産手続が長期化する可能性があります。
弁護士 吉田竜二