紛争の内容
1 縫製業の起業
代表者は、高校卒業後、生地の販売商社・問屋に勤務し、11年後、退職し、昭和60年に、元の勤務先と同じ、縫製業の会社を興しました。
主に、レストラン飲食店などの方が使う、コック服やエプロンなどを製作していました。
その開業資金は、代表者の妻の母からの100万円の援助を受け、開業資金をもとに始めたそうです。
縫製の仕事はありましたが、昭和63年から平成3年ころまでの、いわゆるバブル景気の時代を経ても、その恩恵に浴した記憶はなかったとのことです。
同社の最盛期は、平成23年ころだったそうで、その当時は、パート従業員を10人くらい抱え、年間売り上げは、4000万円くらいありました。

2 東北大震災の影響よる売り上げ減
その後は、平成23年の東北大震災の影響が出、売上は下降していきました。
そして、代表者が保有する自宅を売却し、それで運転資金を工面したこともあるそうです。
平成29年には、経費をさらに節減するために、事業所を移転しました。
しかしながら、受注が減り、またのその受注の状況も不安定になったそうです。
そのころには、パート従業員は2名となり、代表者の子供2人が働くようになりました。
それでも、3000万円位の売り上げはありましたが、やはり、人件費などの固定費の負担が重かったとのことです。

3 新型コロナウィルス禍前後
しかし、その当時は、銀行からの借り入れもでき、運転資金の融通がついていましたので、事業は何とか回りました。
しかし、新型コロナウィルス禍になると、不要不急の外出を控えるとの号令があり、その風潮から外食産業は大きなダメージを受けました。
依頼者の会社の得意先である、飲食店の営業自粛の営業で、受注が3分の1に減りました。
新型コロナウィルス禍になって、世間が外食を控え、飲食店も自粛することから、売り上げが全く立ちませんでした。
当然ながら、借入金・リース料の各支払いに苦慮するようになりました。
具体的には、大口取引先2社で、売上の8割程度を占めていたのですが、それぞれ、以前の取引の3割から4割に減りました。結局、売上の2000万円くらいが消えたことになりました。

4 廃業を決意するまで
コストの削減を検討し、縫製事業を海外に発注し、経費の削減も検討しましたが、古くからの取引先とではコスト的に合いません。
また、海外縫製を行っている他社は、当社の商品(製品)の1,2割の値段でしたので、到底勝負になりませんでした。
漸く、新型コロナウィルスが感染法上の5類に移行した令和5年の年末になっても、一向に仕事(受注)が戻ってきませんでした。
従業員である2人の子供たちへの給与も滞りがちとなりました。
また、滞納している税金もありました。
令和6年6月30日で、廃業することを決意しました。

5 市役所相談、債務整理相談、破産申立を決意
パート従業員にもやめてもらい、2人の子供も他所で働くことになりました。
そこで、代表者の妻が、市役所の法律相談に赴き、担当の弁護士から、会社法人の破産を勧められたとのことでした。
代表者は、妻の話を受けて、当事務所の電話相談を受け、会社の借入等の保証もしている代表者も破産することになりました。
申立依頼の費用、手続費用については、実兄からの援助を受け、会社と代表者の破産申立てをするに至りました。

交渉・調停・訴訟などの経過
依頼会社の代表者は、もっぱら、営業を担当し、代表者の妻は会社経理などを担当していました。
会社にあるリース品の引揚、什器備品の搬出など会社事業所の明渡を行ってからの、破産申立となりました。
これは、予納金を節約するためです。
この明渡準備中に、賃借物件の敷金返還請求権が滞納処分による差押を受けてしまいました。
しかし、子の敷金の返還を破産申立の費用の工面に宛にしてはいませんでしたので、代表者が工面した資金で、裁判所に申立てを行い、管財人のその後の処理を任せることができました。

本事例の結末
会社は、パート従業員の給与未払いはありませんでしたが、身内である2人の子供の給与は未払がありました。
従業員である子供たちは、会社との雇用関係を解消したのが、代表者は6月末限りとの認識でしたが、実は、先行して、4月末には雇用契約を解消し、翌月には、経理労務などの担当する代表者の妻が2人の子の社会保険から脱退などの手続をとり、また、2人の子は、5月から他所で勤務するとともに、同じく縫製業の自営業を始めていたことが判明しました。
会社の客観的資料を基にすると、未払い給与の立替払いの対象期間を経過していることが判明しました。
これは、2人の子が6月末まで、会社の廃業作業として、什器備品の片付けなど手伝いをしてくれたことから、6月末まで従業員であり、その未払い賃金があると認識していたのです。
しかし、再就職などを速やかに行いたい2人の子は4月末で同社を退職し、翌5月には再就職していたことから、5月分、6月分の未払い給与があるとするのは難しいというのが、管財人と協議した結果でした。
それを覆す客観的資料はありませんでしたので、立替払制度の利用ないし適用はないものと承知しました。

本事例に学ぶこと
依頼者法人は負債もそれほど大きくはなく、また、債権者は金融機関、リース会社、賃貸人などでした。
しかし、代表者はそのいずれにも連帯保証をしていましたので、代表者の破産は不可欠でした。
小規模零細企業の廃業倒産は、破産申立の弁護士費用、破産管財費用の工面が難しいものです。
運転資金の融通が利かなくて、破産を考えるのに、お金がなければ破産もできないのです。
今回は、代表者の実兄がさいたま地裁の管財予納金の各最低額(法人20万円、代表者個人5万円)と、当事務所の両者の破産申立代理人の弁護士費用の総額であれば工面できるとのありがたい支援がありましたので、
費用の工面は問題がありませんでした。
また、代表者の妻は会社の経理、労務などを担当しており、申立の準備、管財人面接における代表者に代わっての事情説明など、協力が顕著でした。
そこで、債権者集会はいずれも1回で終了し、異時破産となり、代表者個人には免責の許可も出ました。
今回は、市役所相談でのアドバイスをもとに、当事務所の法人破産の電話相談で、費用目安を聞いた代表者が親族に相談し、その支援を得て、すぐに当事務所に法人破産の依頼をされました。
個人企業ともいうべき中小企業の破産手続には代表者及びそのご家族の協力が不可欠です。
本事例では、代表者の妻の方の協力なければ、早期の破産申立は困難だったかもしれませんでした。
代表者の方、その妻の連携が、早期の破産申し立て、破産手続の終結となったといえます。
法人破産の相談は経営者である代表者が主としてなされますが、会社経営に係る親族の方の協力も不可欠ですので、ご理解いただきたくお願いします。

弁護士 榎本 誉